2019.3.27(水)

「『悔しい』って思うその裏返しには、きっと羨ましさがあるんです」 小山 由香理

    

 

取材対象者:小山 由香理(おやま ゆかり)

対象者プロフィール:
岩手県盛岡市在住。会社員を務めながら、2017年3月に、本とコーヒーとワークスペースのある本屋「Pono books&time」をオープン。本の販売やドリンクを提供するだけでなく、トークイベントやワークショップの会場として貸出を行う等「みんながやりたいことを実現できる場」づくりを目指している。

 

何か新しいことを始めている人、何かを発信している人。そういった人々の多くは、何かしら自分なりの「哲学」を持っているように思えます。「自分が大切にしたい哲学」を考え、見つけることは、新しいことを始めるときの手がかりになるのではないでしょうか。

「いわてつがく」は、そんな思いのもと、岩手県出身のさまざまなクリエイターの「哲学」を紐解いていく連載です。

第4回目は「Pono books&time」の店主、小山由香理さんへインタビュー。会社勤めを続けながら、平日夕方や土日に本屋を営む小山さんの働き方についての考えや大切にしていることをお聞きしました。

 

ステージ側の方が楽しそうだなって

 

——会社員を務めながら「pono books&time」をオープンされたのはどんなきっかけがあったのですか?

世の中にはやりたいことをお仕事にしてる人たちがいっぱいいて、そういう人たちのことをすごくかっこいいなと思っていました。一方で自分はそうして活躍する人たちの音楽を聞いたり、本を読んだり、オーディエンスのような感じで、提供されたものをお金を払って楽しむ消費者としてしか生きていないことが、ちょっと嫌だなと感じたことがきっかけです。

 

——やりたいことを仕事にしている人たちと小山さんとの間に境を感じるというか。

例えば、私は音楽が好きで、ライブをよく見に行くんですけど、ステージ側と客席側では明らかにステージ側の方が楽しそうだなって思うんです。だから、私は、一生オーディエンスでいるのは嫌だなと思って、何か自分の好きなことを形にして誰かが喜んでくれるような状況を作りたいなと考え始めました。

 

——本屋はもともと小山さんがやりたかったことだったんですか?

そうですね。幼い頃から絵本が好きで、本屋さんになりたいなと思っていました。それが初めて自分がやってみたいと思ったことです。でも、それを母に伝えると「本屋さんになるのは難しいんだよ」と言われて、それから「じゃあ自分にはどんなことが出来るんだろう」って自分がやりたいことより、自分ができることを進路として選択するようになりました。だから進学する時に志望校を選ぶにも、やりたいことが学べる学校よりも、自分が無理せず入学できそうな学校を希望したり。なんとなくやりたいことはあるんだけどそこに挑戦することをしないまま過ごしていましたね。

好きを越えた「悔しさ」が出てきたら、それが自分のやりたいこと

 

——その思考が変化したタイミングがあったんですね。

そうですね。それがなんで変わったかっていうと、社会人になってからも本屋さんに行くことが好きで、全国にある素敵な本屋さんに行ってるうちに、お店に行った後、「悔しい」気持ちがでるようになってきたからなんです。

 

——好きで行ってるのに、悔しい気持ちがでてきた。

そうなんです。素敵な店であればあるほど、悔しさが出てくるようになっちゃって。その悔しさは「こういう本屋さんが盛岡にもあったらいいな」、「誰かやってくれないかな」っていうもの。長い間、そういう悔しさを抱いていました。でも、悔しいなって思っているだけでは、そういう本屋さんはできてこないので、誰もやらないならもう自分がやるしかないなって、思い切って自分がお店を開こうと決意しましたね。

 

——自らお店を開いたのには、「悔しさ」がきっかけにあったんですね。

私の中では「悔しさ」はポイントだと思っていて、「何で悔しいんだろう」って考えた時に「自分がやりたいことなんだ」って気づくことができるんです。「悔しい」って思うその裏返しにはきっと、羨ましさがあるんですよね。自分も本当はそれがやりたいし、自分だったらもっとよくできるのにぐらいに思ってるから悔しいんじゃないかなって。だから、その好きを超えた悔しさが出てきたら、それが本当に自分がやりたいことなんだろうなって思います。

 

——悔しさは好きを超えて出てくる感情なんですね。

はい。好きなものほど悔しさを抱きますね。悔しいと思えることはそんなに多くありません。好きなものは沢山あるんですけど、あまり関心のないものは「好き」のままで終わってしまいます。そうではなくて、何かを批判したくなっていたら、それはやりたいことなのかもしれないな、とか。自分がやりたいことなのかどうか判断する基準に悔しさがありますね。

やりたいことをやるって、大変なこと

 

——もし今、やりたいことを探している人がいたら、どのように見つけられるといいでしょう。

私もやりたいことが見つからないままに、社会に出てしまったタイプなので、そういう方の気持ちはものすごくわかります。けど、きっとその人にとってやりたいことが今は曇っているだけなんだと思うんです。

 

——ある、ない、ではなくて曇って見えていないだけ。

やりたいことが自分の中にきっとあるはずです。でも、そういう感情は今まで生活をする中で、すごく奥深いところに埋めてきちゃったんだと思うんですよ。日ごろの楽しさとか、何かそういうところに時間を割いて「やりたいことをじっくり考える」とか、自分の大事なところを見ないようにしている。自分がなにをやりたいのかと真剣に考えることって、見つかったらやらないといけなくなるから、億劫なことでもあると思うんです。実際やりたいことをやるって、大変なこともたくさんありますしね。でも、ちゃんと自分で「やりたいこと」を掘り起こす作業をしていれば、自分がやりたいことを自覚するタイミングはきっと来ると思います。

 

——「いつか見つかるはず」と待っているだけでは、現れないものなんですね。

そうですね。自分が興味を持ったり好きになるものって限りがあると思うので、今、自分が好きなことはとにかくやり続けて「楽しいな」、「好きだな」って感覚を研ぎ澄ましておくといいですね。特に若い時は、興味がいろんなことに向く時期でもあるので、好きなものに対する情熱がすごく働きやすいタイミングでもあると思います。他人から見たら「そんなことが好きなの?」、「それに、そんなにお金と時間を使って何になるんだろう」みたいなことでも、ひとつのものに集中して、知識を吸収したり、色んな経験をするのはとてもいいことだと思います。

 

——ひとつの物事にエネルギーを注ぐ経験をしておいた方がいい。

そうですね。そうすると、いざやりたいことが見つかったときにその感覚で取り組むことができると思うんです。例えば、私も好きなライブとかフェスに行く時にはものすごく頭を働かせています。ライブに行くって決めると「じゃあ宿はここで、こうやってって移動して」って、チケットを取って、移動するスケジュールを決めて、とかどうにかして行こうとするんですよね。みんなできることだと思うんですけど、そういうエネルギーが重要で。自分としては、そうした感覚が、お店を作るときにも役に立ったなって感じています。

やりたいことはやったほうがいい

——小山さんは岩手を離れたことはないんですね。

そうなんですよ。地元は好きなんだけど、嫌いな部分ももちろんあって、いいことも悪いことも両方想いとして抱いているものはあります。例えば、最初にも話をした「誰かにお店を開いてほしい」っていう感覚。あれはよくないというか、自分が嫌な岩手らしい雰囲気かなと思います。しかも、誰かやんないかなってオーディエンスとして待ちながら、提供されないことを田舎のせいにするんですよね。「地方だからしょうがない」みたいな。そういう雰囲気が嫌だなと思っておきながら、自分の感覚がまさに、自分が嫌いな岩手県人だったんですけどね。

 

——今の小山さんからは、前向きな雰囲気が感じられます。

私は「誰かがやるのを待っていたな」ということに気づいて、自分自身を変えることができました。きっとみんながやりたいことを実現できるようなまちになったら岩手はもっと楽しくなるなと思います。なので「やりたいことがあるなら始めてみたらいいよ」と軽く背中を押すような場として、このお店が機能していけたらいいですね。

 

 

——最後に岩手の若者にメッセージをお願いします

言葉がうまく出ないけど「面白いことを考えてるんだったら早くやった方がいいよ」というのが、一番伝えたいことです。これがこうだったらいいのに、とか、自分だったらこうするなとか、浮かんでは、消しているアイディアの種は邪険にしない方がいい。きっとその突飛なアイディアが実現することで、世の中の人たちが喜んでくれる可能性があるので、ぜひ形にして欲しいなと思います。

 

編集後記

小山さんの話す「自分だったらこうするのに」という悔しさは、きっとその出来事が他人事ではなくて、自分に近いことのように感じるからこそ抱く感覚なのだと思います。そして小山さん自身がそうして感じた「悔しさ」をもとにやりたいことを実現してきたからこそ、その経験を通して、より多くの人の夢が実現されることを望んでいます。
この記事を読んでいるあなたには悔しさを感じるような、他人事にはできない物事はありますか?少しでも感じた違和感を大切にして、そのことについてじっと考えてみることが自分のやりたいことを実現するきっかけになるかもしれません。

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