取材対象者:いわて若者カフェ運営スタッフ/佐藤柊平さん、瀬川康さん
対象者プロフィール
佐藤柊平(さとう・しゅうへい)
1991年岩手県一関市生まれ。一般社団法人いわて圏代表理事。明治大学農学部卒業後、地域プロモーション専門の広告・PR会社に勤務。全国30地域の移住促進や地方創生事業の立案・運営等に携わる。2017年秋にUターンし、一関・平泉地域連携DMO発足に従事。ディレクターとして主要業務を担当する。2018年、岩手に関する様々な企画・PR・デザイン業務を行う一般社団法人いわて圏を設立。岩手県総合計画審議会(若者部会)委員。
瀬川 康(せがわ・こう)
1996年山梨県甲府市生まれ。岩手大学農学部動物科学課程4年。大学在学中に専門と並行して心理学を学ぶ。また、起業家人材育成講座である「いわてキボウスター開拓塾」を受講。現在は、「人と人とのつながり」への関心から、「人づくり」を目的とする大学の仮想会社、学内カンパニーECLの社長を務める。
「いわて若者カフェ」は、若者同士の交流を促進し、若者の主体的な活動を発信する場として岩手県が、岩手県公会堂内に開設した施設です。オープンしたのは2017年7月。改修工事を行うため、2018年10月、岩手県民情報交流センターアイーナに「いわて若者カフェサテライト」を構えた後、2019年1月にリニューアルオープンしました。
今回はいわて若者カフェの運営業務に携わっている中心メンバーの佐藤柊平さんとサポートスタッフの岩手大学4年生瀬川康さんのおふたりに、いわて若者カフェの取り組みについて、お話をお聞きしました。
岩手の若者のための交流活動拠点
——まずは、佐藤さんから「いわて若者カフェ」がどんな場所なのか教えてください。
(佐藤さん)いわて若者カフェをひとことで言うと、「岩手の若者のための交流活動拠点」です。県内外で活動している若者の交流の場やイベントを開催するための会場として利用していただきながら、何か活動を始める時のプラットフォームになるような存在になれたらいいなと思っています。
——具体的にどんなことが行われているのですか?
(佐藤さん)行っている主な事業は、ゲストによる講演を聴く「カフェミーティング」と「カフェマスターと若者とのミーティング〜いわての新バイブル〜(以下、いわての新バイブル)」の企画・運営、「いわて若者カフェチャンネル」での情報発信、窓口での相談対応です。特に力を入れているのは、週1回程度実施している「いわての新バイブル」。岩手県を拠点として、まちづくり、ものづくり、伝統工芸、文化芸術等様々な分野で活躍する方々をカフェマスターとしてお招きして、これから行動を起こそうとする若者との交流の場を設けています。
さらに、今後はカフェ内に設置する施設も充実させていく予定で、利用者の方の意見も聞きながら、様々な企画を考えたいと思っています。
「岩手が盛り上がる」のは結果として出てくること
——そもそも、岩手には新しく行動を起こそうとする若者が多くいるのでしょうか。
(佐藤さん)大多数ではないのかもしれませんが、例えば「アパレル関係の仕事をしてみたい」とか「音楽イベントを開催してみたい」とか、「やってみたいこと」を抱いているものの、何をどうしたらいいかわからない、という若者が潜在的にいる感覚はありますね。「いわて若者カフェ」では、そうした行動を起こそうとする若者の視界が広がるような機会を提供することができればと思っています。
——視界が広がる機会?
(佐藤さん)視界が広がるというのは、実現したいことに対する新しい考え方が発見できたり、自分の求められる役割がわかってくること。それは、たくさんの人との出会いによって可能になると思うんです。
視界の広がる出会いを生むために、行動を起こそうとする人たちやすでに活動している人たち同士をつなぐハブのような存在に、「いわて若者カフェ」がなれたらいいですね。
——若者カフェが支援しようとする活動は、地域に関連した活動だけではないのですね。
佐藤さん)もちろん「岩手のために」という前提はありながら、「自分のやりたいことを実現できる」状況をつくることが重要だと思っています。
「地域づくり」や「まちおこし」のジャンルの活動も多くありますが、若い人たちは地域に関連した活動ばかり行っているわけではなくて、観光や教育、福祉などいろんな分野で活動しています。
そもそも「岩手が盛り上がる」というのは活動の目的というより、何か活動をした上で、結果として出てくるものだと思うんです。岩手で「自分のやりたいことが実現できる」という経験が蓄積されたり、そうした状況が県内各地で起きていくことで、結果として岩手が盛り上がっているように見えてくるのかなと思います。
——たしかに、やりたいことを実現している人たちが集まっている地域は楽しそうです。
(佐藤さん)そうですよね。「自分がやりたいことを実現できる」場所があるというのは地域にとって、とても大事なことです。若者たちが、岩手にいると何もできないのではなくて、岩手で「やりたいことが実現できる」状況ができることで、進学や就職を地元でしようと考える人が増えたり、一度県外に出た人がUターンしたいと思えるような雰囲気づくりにも繋がってくると思っています。
すでに行動を起こしている若者だからこそ
伝えられることがある
——ここからは、サポートスタッフの瀬川さんにも加わっていただいて、お話をお聞きします。瀬川さんはどんなきっかけでサポートスタッフに参画したのですか?
(瀬川さん)僕がサポートスタッフになったのは、もともと自分が抱いていた想いといわて若者カフェの取り組みに重なる部分があったことがきっかけです。
——どんな想いを?
(瀬川さん)僕は大学内で、「学内カンパニー」という学生同士が仮想会社を設立し、経営する活動に参加しています。僕が経営しているのは「人つなぎ」を目的とした仮想会社です。学生同士が議論できる場としてトークイベント等を企画・運営し、学びや成長の機会を提供しています。
そうした学内カンパニーでの活動を通して、ひとりではなかなか動き出すことができなくても、たくさんの人と関わりを持つうちに「できるかもしれない」と気持ちが変わって、やりたいことが実現できる経験をしてきました。その経験をこれから行動しようと考えている人達に伝えていきたいと思っている時に、「いわて若者カフェ」のことを知り、ぜひ関わらせてほしい、と参加しました。
——運営スタッフ自身が何か行動を起こしている若者たちなのですね。
(佐藤さん)そうです。運営スタッフは僕の他に、サポートスタッフが瀬川くん含め現在3人。20代の若手社会人と大学生の混同チームで、それぞれがこれまで何か行動を起こしてきた経験のある意欲的なメンバーが集っています。
利用してくださる方達と同じライフステージでいながら、実際に行動を起こしている若者である僕らだからこそ、伝えられるものがあると思っています。
——普段、対応してくれるスタッフの方の年齢が近いと、より気軽に訪れやすい雰囲気があります。
(瀬川さん)実際に、相談やイベント利用でなくても、ふらっと訪れて、雑談をしていってくださる方も増えてきています。
(佐藤さん)いわて若者カフェの存在が定着するにはまだ時間がかかると思うので、できる限りのことをしながら、ここが気軽に利用できる場所で、行って得する場所なんだということを認識してもらえるようにしていきたいです。少しずつそうなっていったらいいな。がんばろうね。
(瀬川さん)はい、がんばりましょう!
「自分にはこんなことができるんだ」という
気づきを与えられるように
——おふたりは活動を通してどんな岩手の未来像を描いていますか?
(佐藤さん) 僕は、いわて若者カフェで行われている企画やこの場を通じて、岩手がおもしろくなっていくための化学反応がたくさん起きていくといいなと考えています。
岩手は広いので、同じ県内にいながら、活動している人たち同士がお互いのことは認識しながらも、繋がっていないことがよくあります。そういう人たちが出会うことによって、「新しくこういう事業を始めよう」とか「こういうことをいわて若者カフェでやってみないか」ということが頻発する場所になってほしいです。そのために僕は頑張りたいなと思います。
(瀬川さん) 僕は、利用してくださる方たちに、いわて若者カフェでの出会いや体験を通じて「自分にはこんなことができるんだ」という気づきを与えられたらいいなと思っています。
ひとりでは「実現できるかわからないこと」や「やったことがないこと」でも複数人で考えていくと「やっていいんだ」という気持ちが出てきやすいと思うんです。そうしてたくさんの人と関わりを持つことで、挑戦する機会が増えて、「自分にはこんなことができるんだ」というのがわかるようになる。そういった機会を促す取り組みになっていくといいなと思います。
——おふたりの考える取り組みが実現されていくと、岩手がより「おもしろく」なっていく未来が想像されてきます。最後に、岩手の若者へ向けてメッセージをお願いします。
(佐藤さん)これから新しく行動を起こそうと考えている若者がいたら、この場所を思い通りに、使い勝手よく利用してもらいたいです。そういうニーズや、アクションにはどんどん応えていきたいし、なんならここで始まる新しい活動には僕たちも関わっていきたい。ぜひ一緒にいわて若者カフェを通して、やりたいことを実現させていきましょう。
編集後記
新たな人との出会いや講演で聞いた言葉など「自分のやりたいことを実現する」ための手がかりはきっと人それぞれにあります。そしてその手がかりを掴む機会は、出会いの場や人の話を聞く場面が増えるほど、多くなるはず。「いわて若者カフェ」では、佐藤さんや瀬川さんがお話してくれた取り組みを通してそのきっかけを、次々と生み出していくことを目指しています。
すでに、具体的なイメージを持って行動を起こそうと考えている人はもちろん、やりたいことを漠然と抱いている人も、ぜひいわて若者カフェを訪れてみてください。