2021.1.22(金)

IoT技術×地域資源で、岩手に農業革命を起こしている 兒玉則浩さん

    

ライター T.Saito

何か新しいことをはじめている人、何かを発信している人。そういった人の多くは、何かしら自分なりの「哲学」を持っているように思えます。「自分が大切にしたい哲学」を考え、見つけることは新しいことを始めるときの手がかりになるのではないでしょうか。「いわてつがく」は、そんな思いのもと、さまざまなフィールドで活躍する人たちの「哲学」を紐解いていく連載です。

兒玉 則浩 (こだま のりひろ)

株式会社 MOVIMAS (モビマス) 代表取締役
株式会社 八幡平スマートファーム 代表取締役社長
高石野施設野菜生産組合 組合長

事業内容 モバイル技術を活用した社会インフラ構築

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

プロフィール:群馬県生まれ。東京でクラウドIoT制御システムの開発を行うMOVIMAS(モビマス)を設立し、岩手県・八幡平市と農業振興を目的に包括連携協定締結を経て、スマートファームプロジェクトの基本合意書を締結。現地法人の八幡平スマートファーム設立後、地域資源を活用する高石野施設野菜生産組合の事業承継を経て、現在は2社の代表と地元組合の組合長を務める。八幡平スマートファームでは、松川地熱発電所の温水を活用し、通年でのバジル栽培を展開している。地域資源とIoT技術を組み合わせて、八幡平市で新たな産業と雇用を生み出している。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ー八幡平市で事業を始めた経緯とは?

私は群馬生まれで、会社員時代には全国各地で企業のモバイル通信普及に伴う、事業を支援する業務に就いておりました。しかし、当時、唯一、東北エリアの開拓が達成できなかったことから、東北の地で何かをしたいという強い気持ちがありました。また、これまでの通信のみに特化した事業支援のままでは、今後の事業としては顧客のニーズに対応できないと思い、東京でIoT事業を行うため、事業変革と先を見据えた、モバイル技術を活用した社会インフラを構築できる会社を創業することを決意しました。

最初に着手したのは、IoTを活用した遠隔監視装置のデータを蓄積するクラウドプラットフォームの開発と、クラウドシステムに取得データを送信するために必要な、専用のIoTゲートウェイという通信機器の企画設計です。その後、前職でもお世話になっていた某大手通信事業者様からのご依頼で、IoTの事業開発を行う業務委託を受けました。お預かりしたお客様の中にいくつかの自治体も含まれており、その一つが、今まで果たせなかった東北エリアの岩手県八幡平市で、これが田村市長と出会うきっかけとなりました。

農場の気温、湿度、二酸化炭素濃度、日射等のデータは、IoTゲートウェイを通じて、クラウドプラットフォームに蓄積され、離れた農場の遠隔監視に活用されます。(株)MOVIMAS HPより引用

ー八幡平市の地域課題を解決するため、どのような提案を行ったのでしょうか?

当時、八幡平市では、松川地熱発電所の地熱エネルギーを活用した熱水ハウス利用者が減少しているという課題がありました。これまで地元企業を含めて数社がこの課題に取り組んできましたが、一度も事業化できず、安比方面へと続くレインボーラインに、耕作放棄された未活用の熱水ハウスが残されていました。私は、この地域の宝を活用しない手はないと思い、八幡平市の「地熱エネルギー」、「未活用の熱水ハウス」と私たちが開発した「最新のIoTを活用した栽培技術」を融合したスマートファームプロジェクトを市長に提案しました。さらに、この計画ではIoT技術を活かした水耕栽培による最新の農業技術を学べる環境を整備することで、次の世代への就農育成の現場にもなると思いました。その後、約2年の実証実験を終え、八幡平市と更なる事業の加速化をさせるため、株式会社八幡平スマートファームを設立しました。

左:未活用ハウスと当時の土地。右:現在のハウスの様子

ーなぜ極寒の岩手・八幡平で暖かい土地での栽培に適したバジル栽培を選んだのでしょうか?

バジル栽培を行うことを決めた理由は、IoTを活かした栽培技術と地域資源を組み合わせることで、今までこの地では栽培できなかった南国産の作物であるバジル育成にチャレンジし、寒い土地で栽培されたバジルは希少価値が高くブランド化も見込めると考えたからです。地熱エネルギーを使うことで冬場は外気温が-15℃でも、ハウスの中は25℃ほどに保たれるので、季節問わず1年中安定したバジル栽培ができます。また、年間を通して2週間に1回のペースで安定した収穫ができます。そして、この環境で育った温泉バジルの価格は、季節による変動がなく年間同じ価格で提供できるので、買い手側のお客様も安定した仕入れができます。農業生産者である私たちも買い取り先が安定しているのはお互いにとって大きなメリットになっていると思います。

バジル収穫の様子。210㎡のハウス1棟あたり2.5~3t(通常の露地栽培の約108倍/㎡) HPから引用

ー新たなIoTを活用した栽培技術で就農へ繋がるきっかけとは?

私たちのハウスではIoT技術で栽培管理することで、その日の温度、湿度、肥料濃度、日射量等の環境データを10分ごとに測定し、離れた東京のオフィスにいても、スマホやタブレットで情報が伝わり、換気扇などの遠隔操作やハウス内を監視することも可能です。例えば、バジルに肥料を与える時も、肥料を水に溶かした養液を、縦型水耕栽培システムの上から下へ流していきます。全体に養液が行き渡るようにするため、肥料濃度が足りなく基準値以下の場合は自動で追加調整して、養液ポンプで循環して流しています。IoT技術を利用することでこれまでの農業経験がなくても、簡単にバジルを栽培できます。今働いている若いスタッフの一人も、地元が八幡平市で、他の会社で働いていたにも関わらず、ここを継ぎ、将来は自分の息子にもここを継がせたいという気持ちで転職してきてくれました。そのように地元の方々が地元産業を盛り上げてくれることは、本当に嬉しい事ですし、改めてここにポテンシャルがあると思いました。現在、ハウスが12棟立ち並んでいますが、将来的にはハウスを最大50棟まで増やして行き、全体で250人ほどの事業規模になるようにしていきたいと考えています。

縦型水耕栽培システムでは、左右合わせて14株のバジル栽培が可能です。

ー現在販売している加工品、これから販売する予定の商品を教えてください。

私たちが生産している温泉バジルは、サンリオ社とコラボしてハローキティパッケージで販売しています。このフィルムは鮮度保持機能が非常に高い効果がありますので、ご自宅でも生バジルの特徴である香りを長く楽しむことができます。

また、八幡平市で老舗である肉の横沢様「コマクサ杜仲茶ポーク」と、弊社の生バジルを練り込んだ「温泉バジル薫るジューシーソーセージ」は、生バジルの香りと肉の旨味を合わせることで、お互いのポテンシャルを出せるコラボ商品として、商品化が決まりました。現在は、八幡平市のふるさと納税の返礼品にも提供しています。さらに、近くの松っちゃん市場では、温泉バジルソーセージをフランクフルトなどの新商品として、皆様が手軽にお召し上がりいただく販売計画を進めています。

バジル以外に栽培している商品は、縦型の水耕栽培装置でレタス、1年間収穫できる四季なりいちごなどを試験栽培しています。当初はうまく地熱を活かしていくことが目標でしたが、様々挑戦してやっと形になってここまで来ました。早く商品化して皆様にご提供していきたいと思います。

(株)サンリオ社とのコラボで実現したハローキティパッケージの「温泉バジル」

ー兒玉さんがこれから岩手で挑戦することは?

八幡平スマートファームでのご縁に始まり、県内各所でスマートファームの勉強会を通じて、新たなご縁をいただきました。現在も県北県南において様々なIoT活用の事業プランを提案し、プロジェクトが進んでおります。これまでは、ITと農業は相性が悪いと言われていましたが、八幡平スマートファームの事例のように、IoT技術と地域資源を活かしたIoT農業を展開していきたいです。そして、私が得意とする最新鋭のIoT技術で、プロの方だけが仕事ができる環境ではなく、就農未経験の方でも仕事ができるようにすることが、私の役目だと思っています。今後は、県内の地域と連携して新たな会社設立の要望にも応えていき、持続可能なIoT事業にチャレンジしていきます。

ーこれから新しいことに挑戦する若者へ

いわての若者、全国の若者にメッセージを!

岩手には八幡平市のように、良いポテンシャルの地域資源がたくさんありますので、今いる環境の素晴らしさを若者に理解してほしいです。しかし、何もないとの理由で県外に出てしまう方が多いです。昨今、ネット環境が整備され自分の住んでいる環境がIoT技術との組み合わせで、新たに生まれ変わり、自分たちのブランド価値が高まる可能性が十分あります。場所は問わず自分たちのアイディアと行動が大事な時代です。

八幡平スマートフファームのスタッフの皆さん。

 

八幡平スマートファーム

住所    〒028-7111 岩手県八幡平市大更第35地割62番地

電話番号  0570-02-1115

 

 

 

投稿:Co.Nex.Us運営