2020.7.31(金)

一期一会を大切に、ブルーオーシャンの漆(うるし)世界。  松沢 卓生さん

    

ライター T.Saito

何か新しいことをはじめている人、何かを発信している人。そういった人の多くは、何かしら自分なりの「哲学」を持っているように思えます。「自分が大切にしたい哲学」を考え、見つけることは新しいことを始めるときの手がかりになるのではないでしょうか「いわてつがく」は、そんな思いのもと、さまざまなフィールドで活躍する人たちの「哲学」を紐解いていく連載です。

松沢 卓生 (まつざわ たくお)

株式会社 浄法寺漆産業 代表取締役社長

事業内容:漆の販売・漆器の企画販売

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プロフィール:盛岡市出身。二戸地方振興局への転勤をきっかけに浄法寺漆と出会い、2009年、岩手県庁を退職後、漆文化の継承と革新、漆産業の復興を目指し浄法寺漆産業を創業。国内に留まらず、海外の展示会などにも参加し、県内外で国産漆の普及に取り組んでいる。

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ー漆(うるし)と松沢さん。

盛岡生まれ盛岡育ち岩手県職員として務めた後退職し、その後、起業して浄法寺漆産業を立ち上げて11年目になります。経歴としては少し変わっていて、公務員をやめて起業する人はあまり多くはないそうです。また、漆の商売も全国的にも珍しく、漆器屋は全国にもありますが、原料となる漆と漆器を扱っている商売はあまりないです。さらに国産漆をメインに事業をしているので、似ている商売がほとんどないのが、私の商売の特徴です。

漆は岩手の特産物であり、産業。こんなにいいものがあるのにポテンシャルを発揮できていない。これを全国に広めるだけでも事業になると思い、ニッチな事業で起業しました。

周遊型豪華寝台列車「TRAIN SUITE 四季島」内装 (JR東日本提供)

ー学生時代の松沢さん。

学生時代は東京への憧れもありましたが、ずっと盛岡で暮らしています。高校と大学時代は、部活はしていなかったですが、文化的な本や映画も観ることに没頭してしまい、そのまま趣味になっていました。

今振り返ると盛岡の文化と自分の好きなことがマッチしていて、居心地がとてもよかったと思います。住んでいる盛岡に関しても、当時は文化や歴史など、あまり魅力を感じられませんでしたが、今となってはすごくいい街で育ったと思います。

ー漆で仕事しようと決めたきっかけ。

漆とは木の樹液を採取したモノ。木に傷をつけて液体を人が使う。この一連の作業が漆を取る重要な手段です。もともとは塗料ではなく人間が上手く使いこなし、漆器や建物、仏像に使ったりしました。しかも漆の歴史は、とても長く縄文時代の初めから使われていたそうです。

浄法寺での漆採取の風景をみると、木に傷ついている状態など、それがとても原始的で、普段の日常では見られない光景が今でも残っています。実は、漆は皆さんがいつも食べているお米より歴史が長く、昔は海外から「JAPAN」と呼ばれるほど、漆は日本を象徴するモノでした。しかし、現在は衰退の一途をたどっているのです。私はそのことを県職員時代に知り、みんなが知らない漆を復活させようと思い、様々な活動をしていく中で起業に繋がりました。

漆はライバルがいない、ブルーオーシャン。むしろ衰退しているから、誰も見向きもしないから安心感もある。漆はおもしろい。漆のことをもっと世界へ広めたい。この自分の想いや理想が社会貢献になれば本望です。様々な仕事はありますが、お金を稼ぐことと社会貢献のバランスを上手く保つことが重要だと思います。

木に傷をつけ漆を採取している漆掻き職人。

ー漆の仕事。

最近は一般の方からの注文が多く、自分で漆を使い何かを作る人が増えてきたと思います。また、日本だけでなく、海外からの注文が増えてきています。ネットで販売することで、お客さんが全世界に大勢いますのでフルで活用しています。

 しかし、現在岩手でもまったく漆が足りていない状況なので、どんどん漆の木を植えていますが、まだまだ足りていません。今まで漆の採取は約10年から15年育ててコップ1杯しかとれない、そうした文化を継続しているのは凄いことですが、今の最新技術でより多く効率よく取る方法がないかを研究しています。中国から常に漆を買える状態がずっと続いていたので今までは研究はあまり行われていませんでしたが、国内で持続的に供給できるくらいに漆をとっていかないといけません。現状は、中国に95%近くを頼っているので、せめて50%にしていかないといけないのです。もっと国産漆の自給率を高めていかないといけません。

沖縄の首里城なども中国産の漆を使用しています。文化財建造物の修復は平成27年に文化庁から通達が出て、原則国産漆を使わないといけません。国産漆は限られていて手に入りにくいですが、私も国産漆を使いたいので様々工夫し、考えていかないといけないです。

蒔絵を施した漆ステアリング。

ー仕事をする上で大切にしていること。一期一会。

ご縁や繋がり。

人とのご縁を大事にしています。すぐに仕事につながることも中にはあるかもしれませんが、それがきっかけで他のご縁で繋がることもあるので、一期一会を大切にお話をじっくり聞くことが大事だと思います。

実際に大きな会社であれば日本航空(JAL)、トヨタ自動車、JR東日本、住友林業などとのコラボレーションができました。
JALとのご縁は、漆の力ですね。実は自分で営業したのではなく、初めは岩手県庁に話があって、JALさんが地域の特産で頑張っている方々を応援したいと探していたそうです。そこでたまたま漆に目を付けていただけました。JALさんの通販で漆器を売るのがはじまりでした。そこからJALさんとはとても密接に繋がりまして、漆の木を植えに来てくれたり、本社で漆の種を販売して社員の自宅で育てるプロジェクトまでしてくださり、JALの社長も買っていきました(笑)。今の漆の課題として国産漆の少なさと種の発芽率が非常に低いこともあり、漆の将来のことまで考えて頂き、協力してくれたことはとてもありがたいことです。

JALとコラボレーションした漆器。

トヨタ自動車のアクアは岩手県の金ヶ崎で生産されており、岩手の特産物である漆とのコラボレーションが実現しました。これをきっかけにレクサスから支援を受けてモノづくりをするようになりました。たくさんのご縁をいただきました。

漆を塗ったアクア

今取り組んでいること、チャレンジしたいこと。

企業とのコラボレーションです。まだまだコラボレーションできる可能性がたくさんあるので、どんどん企業とタッグを組んでいきたいです。また、現在取り組んでいる漆染めマスクは、漆の木をチップにして、全体を残すことなく活かすことができ、さらに抗菌性が非常に高いので、とても好評です。マスクのような漆のポテンシャルを活かせる商品を提案していきたいです。基本的に漆文化は江戸時代で盛んになり、失われた技術も多いのですが、現代のテクノロジーで様々変えていき、漆のすばらしさを現代で再認識させていきたいです。

漆を使用した洗えば洗うほど抗菌性が高まる漆染めマスク

ーこれから新しいことにチャレンジしたいと考えている人へ。

いわての若者、全国の若者にメッセージを

チャレンジはした方がよい。失敗は糧、財産になる。やってみてだめなら、違う角度から行う。

自分で言えば、公務員を辞める時がそうでしたが、チャレンジする時は、周りが支えてくれる環境が大事だと思いました。当時は応援してくれた人もいましたが、そうでもない方もいました。大変ですが、失敗してもいいからまずはやること。前向きに行える環境が大事です。失敗した経験が将来の自分になると思いますので、ダメという言葉を使わない世の中にしていかないといけないといつも思っています。若いうちから意識していくことが非常に大事です。次の時代は自分たちが作るという気持ちで仕事に向き合っていくことが大事です。

ニューヨークの「JAPANESE CULINARY CENTER」での個展。

 

株式会社 浄法寺漆産業

住所  〒020-0857 岩手県盛岡市北飯岡2丁目4ー23

電話番号 019-656-7829

営業時間 9001700(不定休)

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