いわてつがくとは…
何か新しいことをはじめている人、何かを発信している人。そういった人の多くは、何かしら自分なりの「哲学」を持っているように思えます。「自分が大切にしたい哲学」を考え、見つけることは新しいことを始めるときの手がかりになるのではないでしょうか。「いわてつがく」は、そんな思いのもと、さまざまなフィールドで活躍する人たちの「哲学」を紐解いていく連載です。
内田 祐貴 Yuki Uchida
NPO法人ハナレヤ代表
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プロフィール:
岩手県花巻市出身。岩手県立大学在籍時に任意団体「HANALLE→(ハナレヤ)」を設立し、活動を開始。地方の10代を呼び興す、をミッションに、人材育成、居場所づくり、まちづくりに取り組んでいる。2023年に「NPO法人ハナレヤ」として法人化。2020,2021,2023年に「いわて若者アイディア実現補助事業」の採択を受け、その活動をさらに展開させている。
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※インタビュー内容および所属は、取材当時のものとなります。
-「ハナレヤ」とは?
岩手県花巻市に拠点を構え活動する「NPO法人 ハナレヤ」。
地元の子どもや若者たちが、地域や社会に向き合い、自分たちのやりたいことを実現するための場として、日々さまざまな活動が行われています。
その取り組みの中心には、「都市と地方の教育・体験格差」を解消し、若者の力で地域をポジティブに盛り上げたい、という内田さんの強い信念があります。
▲ハナレヤベースに集まる学生たち。開放的なテラスから広い庭を眺めることができます。
-花巻に根差した活動の始まり
「ハナレヤ」の活動が始まったのは2015年。
当時、岩手県立大学3年生だった内田さんが、地域の課題に向き合う中で生まれたプロジェクトでした。きっかけは、内田さん自身の経験にあります。
「親が転勤族だったこともあり、幼少期に都会と地方、どちらの暮らしも経験していました。」
ご家族とともに、全国を転々としていた内田さん。中学生の時に、親の実家のある花巻へ一家でUターンしてきました。都会での生活では、塾や習い事、ファミリーレストランやゲームセンターなどといった、学びと体験、娯楽の選択肢が多くありましたが、花巻ではそうした環境が限られていることに気付きます。そのギャップが、内田さんに「教育格差」「遊びの格差」について考えさせる原点となりました。
さらに、花巻市内の多くの高校では、アルバイトが禁止されているといいます。ロールモデルも少ない中で、「将来をどうするか」を問われる矛盾に直面。大人が「やりたいことは何か」と問う一方で、子どもたちには経験を積む機会や選択肢が与えられていない現状に、内田さんは違和感を覚えました。
-「やりたいことを実現する場」としてのハナレヤ
こうした経験から生まれた「ハナレヤ」の目的は、地方の10代に対する「教育格差」と「体験の格差」を解消すること。そして、若者たちが主体となり、地域にポジティブな影響を与える存在へと成長することです。「ハナレヤ」の活動は大きく分けて三つの柱から成り立っています。
1. 人材育成
2016年から社会教育プログラムを提供して、人材育成を行ってきました。現在は、花巻市内の高校で総合的な探究の時間の授業を受け持ったり、放課後に探究活動のサポートをしたりしています。
2022年度から全国の高校で必修となったこの授業では、高校生たちが興味のあるテーマを基にリサーチを進め、地域課題解決等に向けたアクションを展開しています。冬には地域で活動報告会を開きます。
特に、大学受験では探究活動の成果をプレゼンや小論文でアピールすることが求められる場面が増えており、「ハナレヤ」での経験が大きな強みになっています。学習塾が提供するような学力向上だけでなく、社会で求められる実践的な力を育む点が大きな特徴です。
▲自分の興味のある分野を深掘りする時間は、これからの時代さらに求められるものになってきます。
2.居場所づくり
花巻駅前に10代の秘密基地、花巻ユースセンター「ハナレヤベース」を開設し、子どもや若者たちに居場所を提供しています。このユースセンターは、単に集う場所であるだけでなく、学習や地域探究活動の拠点としても機能しています。自由に集まり、挑戦することができる環境で、学習支援塾、探究塾、様々なイベントやセミナーを通じて、学びや体験を深める機会を提供しています。
学校や家以外で、大人たちと関わりが生まれることもこの場の良いところです。 クリスマスパーティのような気軽なイベントから、キャリア学習を目的としたセミナーまで、楽しく有意義な経験を提供して、地域に新たな価値を創っています。
3.まちづくり
若者と地域の連携を促し、まちづくりに活かします。行政や企業と連携した取り組みや、多世代交流、地域活性化、コミュニティづくりにも取り組んでいます。
「探究×まちづくりシンポジウム」では花巻市長をお招きし、地域課題について議論を深める場を設けるなど、行政との連携も積極的に行っています。 活動している若者の様子は、さながら「プチ地域おこし協力隊」といえます。その活動は多数のメリットを地域に還元しています。
-仲間たちと共に進む未来
「ハナレヤ」の運営には、現在理事の3人をはじめ、学生や社会人ボランティアが関わっています。
リノベーション、飲食店の経営に関わってきたメンバーや、教育分野に精通するメンバーといった、多様なバックグラウンドを持つメンバーが一丸となり活動を支えています。 「地方で生まれ育つ子どもに、幸せになってほしい」という内田さんの想いから始まった「ハナレヤ」。その取り組みは、子どもや若者たちの成長を促し、地域の未来を明るくする原動力 となっています。
-子どもの自分らしさを広げる
「楽しい」を起点に学びと地域活動を結びつける「ハナレヤ」の手法は、多くの子どもたちの人生を変えるきっかけとなっています。「ハナレヤ」での活動は、単なるイベントや勉強にとどまりません。様々な体験を通してやりたいことを発見したり、興味関心のあるテーマを深堀りしたり、さらに地域や社会の課題と結びつけたアクションを行うことによって、楽しみながら、社会のことや、働くこと、進路選びに関する現実を学び、より自分らしい生き方を見つけていきます。
学校の先生や大人たちは、「進路どうするの?将来の夢や、やりたいことは何?」と聞いてきますが、なかなか答えられないのが当たり前です。何となく決めた進路や就職先で、ミスマッチが起きたり、そもそもの可能性がとても狭まってしまったり、子どもたちの人生を大きく左右する大切な事なのに、それを見つけるためのサポートは世の中に不足しているのが実情といえます。
その中で、内田さんが印象に残っているエピソードを話してくれました。
「公務員志望の高校生がいたので、公務員として働く社会人をイベントにお招きし、実情や働き方について気軽に話せる機会を設けました。その高校生は、地域活性化やまちづくりに興味があったため、公務員を志望していたそうです。しかし、公務員には部署異動があり、希望通りの配属になるとは限らない実情や、もし希望部署についたとしても長年同じ仕事を突き詰められないという特性、そして民間企業でも地域活性化やまちづくりの取り組みができる時代になっているという話を聞きました。」
その高校生は、「将来は民間の立場から地域活性化の活動をしたい、進路もそのような事が学べる学校に行きたい」と、自然と気づきを得て、進路を決めたそうです。探究活動を深めるハナレヤでの活動をきっかけに、自分の可能性に気づく子どもが増えています。子ども達の人生を大きく変えてしまう怖さはあるものの、本人たちが気付かぬうちに狭めてしまっていた可能性を広げられることは、きっと求められていることだと、内田さんは話します。
-楽しいから始まる学び
「学ぶ理由は後付けで良い。重要なのは、楽しいと思える目標を見つけることです。」
内田さんが提唱するのは、世間体や一般論に振り回されず、あくまで「自分がワクワクする目標」を立てる手法。そして、その目標に向かう過程で、自然と学びの必要性が見えてくる仕組みです。 成功体験を積むことも重視されており、小さな成功の積み重ねが次の挑戦への自信につながります。目標達成までの道のりを伴走する姿勢が、「ハナレヤ」の特徴です。
▲商品開発を行い、実際に販売し、利益を得るところまで伴走。
社会の流れを理解する取り組みとなっています。
-探究心を育てる工夫
「好きなことが何もない」と言う若者に対しても、内田さんはその興味を引き出すサポートを惜しみません。例えば、最近のYouTubeの視聴履歴やプレイしたゲームから、「なぜそれが好きなのか」を紐解きます。
「普段何気なくやっている行動が、一番のヒントになります。犯罪や倫理に反しない限りは、何でもいいので取り組んでみて欲しい。それぞれの興味関心を基にして取り組むことが、学びのきっかけになります。」 この柔軟な姿勢が、若者たちの思い込みを外し、新たな可能性を広げるカギとなっています。
-「ハナレヤ」の実績と未来への展望~持続可能な活動を目指して~
活動を通じて、多くの実績も生まれています。進学校ではない高校の生徒が大学への進学を果たしたり、プレゼンや志望理由書のサポートを受けて合格を勝ち取った事例もあります。 探究活動での経験が、学力や表面的な試験対策以上の力を証明するものとなっています。
「ハナレヤ」は現在、花巻駅前の空き家をリノベーションして、塾とカフェを併設したユースセンターを整備しています。塾とカフェは2025年春先のオープンを目指しており、現在はプレ期間で、様々なイベントや塾の体験会などを実施しています。塾やカフェなど収益事業を進める理由としては、助成金や寄付だけに頼らず、自主事業から運転資金を作ることで、経済的な安定を図りつつ、子どもや若者の支援を継続可能なNPOを目指すからです。
-「いわて若者アイディア実現補助事業」の活用経験と意義
岩手県では、震災復興や地域づくりなどに関して、若者のグループ自らが地域の課題解決や地域の元気創出に資する事業を実施することへの支援を目的として、若者グループの独創的、先進的な事業に対して最大30万円の活動費を補助する「いわて若者アイディア実現補助事業」を行っています。
内田さんは、活動の基盤を支えるため、2020年から毎年「いわて若者アイディア補助事業」を申請しており、3度の採択を受けています。その資金は広告費やオンラインツールの整備費、イベント講師の謝金などに充てられ、活動のクオリティ向上に寄与しています。
「この経験を通じて、チーム内の目線合わせや計画の精査が進み、より具体的な成果へとつながりました。採択を受けることによって、活動を安定して行うことができています。」 今後も「ハナレヤ」での活動を通して、地域に価値を還元していきたいと考えていらっしゃいます。
さらに内田さんは、今後本事業に申請しようとしている団体へ、このようにアドバイスをくださいました。
「申請書類では、限られた書式内でビジョンを伝える工夫が求められます。私も、書き方のポイントがわからなくて苦労しました。書類審査なので、直接審査員と面談できるわけではありません。どのように思いや成果を伝えるかが 鍵だと思います。地域へどれだけ還元できるか、そこが重要です。」
内田さんは、こうした補助金の存在をもっとたくさんの人に知ってほしいと考えています。
「法人でない任意団体でも申請できるので、資金面で挑戦を諦めることがないよう、どんどんチャレンジしていってほしいです。」
-地域と若者が共に輝く未来を
「ハナレヤ」の最終的な目標は、地方の若者が楽しみながら活動する中で、「マチもジブンも成長する」こと。都市と地方の教育格差や体験格差に対して、子どもを助けなきゃという哀れみではなく、地方ならではの資源を活かした、ここでしかできない学びや体験を提供して、ポジティブな課題解決を目指しています。
子どもや若者、地域社会のために存在価値を高めながら、経済的な自立を両立させる新しいNPOの在り方を模索しています。 地方の子どもたち一人ひとりが自分らしい未来を見つけられるよう、「ハナレヤ」の挑戦はこれからも続きます。その活動は、花巻のみならず全国に広がる可能性を秘めています。
▲若者のパワーで、ポジティブな変化を地域へ。これからの内田さんとハナレヤに集まる若者達の活躍に注目です。
★現在(2025/2/12時点)、NPO法人ハナレヤさんでは、ユースセンター設置に向けたクラウドファンディングを実施しています。
集まった支援金は、ハナレヤベースの整備費などに充てられます。
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▼クラウドファンディングの詳細はこちら
「花巻発!地方の未来を興す、10代の居場所を作りたい!」
https://for-good.net/project/1001401