いわてつがくとは…
何か新しいことをはじめている人、何かを発信している人。そういった人の多くは、何かしら自分なりの「哲学」を持っているように思えます。「自分が大切にしたい哲学」を考え、見つけることは新しいことを始めるときの手がかりになるのではないでしょうか。「いわてつがく」は、そんな思いのもと、さまざまなフィールドで活躍する人たちの「哲学」を紐解いていく連載です。
大場 理幹 Satoki Oba
特定非営利活動法人おおつちのあそび 理事/東京大学大気海洋研究所大槌沿岸センター博士課程
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
プロフィール:
1996年生まれ、兵庫県出身。北海道大学卒業後、東京大学大学院に進学。 半年間、千葉で研究をした後に大槌へ。 趣味は、カヤック、釣り、川遊びなど。NPO法人おおつちのあそびを発足し、ネイチャーツアーの企画運営のほか、町内外の子どもたちの見学の受け入れなどに取り組む。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※インタビュー内容および所属は、取材当時のものとなります。
ーこれまでのプロフィールを教えてください。
神戸出身で、祖父が釣具屋だったり、父も釣り具メーカーで働いていたこともあり、神戸にいた頃から釣りによく連れて行ってもらっていました。その後は中高一貫校に進学したのですが、そこの学校の生物部がすごく有名で、自分も生き物好きだったこともあって生物部に入りました。
高校1年生の頃、実家の近くにある水族館で、研究者の研究紹介を一般人でも分かりやすく説明してくれる「サイエンスカフェ」みたいなイベントをやっていたんです。そこで、日本の在来種だと言われていたクサガメは、遺伝子解析などをしていたら、どうやら中国から連れてこられた亀だったという話を聞いたのですが、その時に研究ってすごく面白いなと思いまして。当たり前だと思っていた常識が、簡単にひっくり返された感覚がありました。
大学では水産系の研究がしたかったので、北海道大学に進学したのですが、大学に入ってから釣りやカヌー、冬はスノボーなどずっと遊んでばかりでしたね(笑)でも、大学4年生からは結構真面目に研究、調査をしていました。鮭について研究する研究室にいたのですが、知床で鮭に水温や水深が分かる記録計を付けて泳がせて、帰ってきた個体を回収・データ解析をして、鮭の行動変化を分析するような研究をしていました。
私としては、より魚の生態について専門的に研究できる場所で学びたいと考えていたので、東京大学大気海洋研究所の青山潤先生という方をご紹介いただきました。大槌町には東京大学大気海洋研究所大槌沿岸センターという施設があるのですが、青山先生とも大槌町で出会い、日帰りで30分くらい話して「あ、ここがいいな」と思って、大槌町を研究フィールドに決めました。
私がメインに調査フィールドにしているのは大槌町の大槌・小槌エリア、釜石市の鵜住居エリアを中心としています。北海道に比べて三陸の鮭の研究蓄積はそこまで多くないので、三陸沿岸の鮭、特に野生魚の鮭がどれくらいいて、どこで産卵をして、稚魚はどのタイミングで下っていくのか、などの基本的な生態的知見を蓄積する研究をしています。
また、個人事業主を経て大槌町に移住してから「NPO法人おおつちのあそび」という団体を設立しました。おおつちのあそびでは、自社のガイドによるネイチャーガイドだけでなく、地域の一次生産者や自然のプロ達を主役にしたツアー・教育事業を実施しています。
日々自然の変化と向き合い、それらを糧に生きる漁師、猟師、農家達は野生動物のような鋭い勘を持ったプロフェッショナル達と共に、山を歩き鹿を撃ち、海に潜り、田植えや稲刈りをする、おおつちのあそびは、そんな出会いと発見の場のサポートをしています。
ーおおつちのあそびを設立した経緯は?
大学院1年生の夏休みにモンゴルに行ったのですが、そこでは野生の動物を捕って、その肉が吊るしてあったんです。私も釣りをして魚を採って食べるという感覚はありましたが、肉を捕って食べるという感覚はなかったので、よくよく考えたら大槌にめちゃくちゃ鹿がいるので、それを捕れるようになったら肉食い放題じゃないかと思ったりしました。
そんなことを考えていた時に吉里吉里地区の薪まつりというイベントの手伝いにいったら、そこでジビエ料理のキッチンカーが出ていました。その時に㈱MOMIJIの方とお会いして、当時大槌町内で最若手かつ、ジビエ事業を始めていた兼澤幸男さんを紹介いただき、私も猟師デビューすることになりました。鹿撃ちをやりつつ、狩猟や解体体験も含めたジビエツーリズムを興そうという話が挙がって、私が企画運営や現地ガイドを担当することになりました。
ジビエツーリズムも2023年で3年目を迎えるのですが、大槌町はやっぱり海と川がきれいだし、ジビエツーリズムに来たお客さんに「次はシュノーケリングや川遊びもしてみませんか」と紹介できると良いなと思ったんです。都会は水族館や動物園といった箱が必要ですけど、この地域なら海に潜ればいっぱい魚が見られるし、道路走っていれば鹿も熊も狸もいて、十分サファリパークみたいじゃないですか(笑)
山も川も海も遊んでみれば、そこにあるものが何かわかるとそれが楽しくなるし、遊んで楽しい場所であれば自分の子供・孫世代にも残していきたいという気持ちも芽生えると思っています。ジビエツーリズムで山に入る時も、「あそこに松の木があるから、もしかするとマツタケが生えているかもしれない。あっちには栗の木やどんぐりがたくさんあるからクマが出てくるかもしれない」と、山を見る視点や知識があれば面白くなるし、自然に対して自分ごとに考えることができます。
都会にはテーマパークやエンタメ施設がたくさんありますけど、逆に都会には鮎や鮭が遡上してくる川はない。この地域にはそういう自然や動物、魚が生息していて、そこの美味しいものを食べて生きているということは地域の子供達にとって人生のアドバンテージになると思うのですが、実際の比率でいうと知らない子供たちが大半だし、知らずに育つのはもったいないです。
ーたしかにそうですね。その中で大場さんが大切にしていることは何ですか?
私は「解像度」という単語を使うのですが、身の回りにある海、川、山など自然の知識や視点などの解像度を上げれば、きっと人生も豊かになるんじゃないかと思っています。別に自然に限った話ではなくて、たとえば工学系の知識があればただの建物や車も多分面白くなるし、知っていれば面白く感じるものって世の中にはいっぱいあります。でも、それを教えてもらうことが少ないので、私たちはみんなが自分の身の回りの自然に興味関心を持って、楽しめるような社会するための手助けをしていきたいです。
「教育」と掲げると敬遠する人も多いし、大槌町の方と話をしていると、そういう自然に対する視点は日常の遊びの中で培ってきたのだと気づきました。以前、「おおつちのあそび」で虫取りツアーを企画したのですが、その時もこちらでガイドはしつつ、「この虫はうちの庭にもいたよ」と互いに教え合っていました。それは決して教える/教えられる関係ではなく、子ども達と対等に遊びながら、子ども達が自発的に調べてきたものを、大人たちがちゃんと受け止めてあげる、それが子ども達の自然の解像度を上げるモチベーションになるんじゃないかと思っています。
ー同じ道を志す若者へのメッセージをお願いします。
私もまだこれが生業となっていけるかまだわからないですが、「こんなことで生きていけたらいいな」、「こういうことをやりたいな」と口に出して、色々な人に言ってみるのが大事かと思います。恥ずかしがったり怖がったりするのはしょうがないんですけど、言ってみて関係性ができていればきっとみんな応援してくれます。私は酒飲みなので飲み歩くのが一番手っ取り早かったです(笑)
私は研究一本でやっていくには能力が足りないと思いますし、合わせ技一本じゃないですけど、いろいろやっていく組み合わせで唯一無二の立場を作れば、ほかに負けないものが作れるかもしれない。研究者で優秀な人はたくさんいますし、ネイチャーガイドだと専門学校に行っている人は僕より優秀だと思います。でも、博士号を持っていて、ネイチャーガイドができたらその人達だけではできない仕事ができるわけじゃないですか。「博士号を持つハンター」とか「ハンターしながらガイドもやる」とか、色々な組み合わせで自分のぶれない立場を作ることは意識してやっています。
単体では周りにすごい人がいて挫折してしまうかもしれないけど、「合わせ技」という感覚をもつことで、唯一無二の存在になれるかもしれないという考え方も持っていても良いかもしれません。