2024.3.27(水)

岩手の魅力や情報をお届けする 岩手出身アナウンサー 中條奈菜花さん

    

いわてつがくとは…

何か新しいことをはじめている人、何かを発信している人。そういった人の多くは、何かしら自分なりの「哲学」を持っているように思えます。「自分が大切にしたい哲学」を考え、見つけることは新しいことを始めるときの手がかりになるのではないでしょうか。「いわてつがく」は、そんな思いのもと、さまざまなフィールドで活躍する人たちの「哲学」を紐解いていく連載です。

中條 奈菜花 Nanaka Chujo

NHK盛岡放送局コンテンツセンター キャスター

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プロフィール:
1993年10月7日生まれ、岩手県滝沢市出身、岩手県立大学総合政策学部卒業後、NHK函館放送局、NHK仙台放送局を経て、NHK盛岡放送局でキャスターとして勤務。主に夕方のニュース番組「おばんですいわて」を担当。

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※インタビュー内容および所属は、取材当時のものとなります。

ーアナウンサーという仕事を志すきっかけを教えてください。

私は昔から好きなことは何でも全部やりたい性格で、テニスをはじめ、エレクトーンや絵画、演劇、水泳などを習うなど様々なことに挑戦してきました。中でも、中学生の時に「私の主張」という弁論大会に出たことが現在のアナウンサーの仕事につながっていると思っています。

当時、部活動で硬式テニスをしていたのですが、コーチが亡くなってしまったことを受けて、「生きる」というテーマでコーチのことについて弁論しました。自分が考えたこと、学んだことを発表した時に、コーチの奥さんが涙ながらに「ありがとう」と言ってくださったことが深く印象に残っています。自分が何か話したり、伝えたりすることで誰かの心が動くことを中学生ながらに実感しました。この経験から、自分の思いを伝えることは勇気がいるけれど意味のあることだと感じて、喋る仕事を意識するようになりました。

当時は、絵が好きだったので画家になりたいとか、演劇も好きだったので俳優になりたいとか、犬を飼っていたので動物関連の仕事がしたいなど、将来の夢も幅広かったのですが、明確にアナウンサーという仕事を志したのは東日本大震災の時でした。

震災の時、私は内陸にいたのですが、数日間停電でした。何が起きているか分からず不安な中、ラジオでNHKのアナウンサーが一晩中、被災地の現状を伝え続けていたことが心の支えになりました。その中でも一番心に残っているのは、「この夜を一緒に乗り切りましょう」という言葉でした。他にも、「明けない夜はありません」という一言や「新聞紙で暖を取ることができます」という知恵などを聞いて、他人なのにすごく身近に感じて勇気づけられて、言葉の持つ力に感銘を受けました。

アナウンサーはただ喋るだけではなくて、感情を乗せて言葉を伝えていると実感し、自分が励まされたように言葉で誰かの背中を押せる人間になりたいと強く思い、そこからはアナウンサーになることだけを考えて生きていました。

ー震災がきっかけでもあったのですね。

震災当時は高校2年生の春休みで進路をどうするか悩んでいる時期でした。東京の大学のアナウンサー志望者は、多くの情報に触れられたり、同じ志の仲間が多かったりするので、アナウンス受験に有利な環境が整っていると思います。

アナウンサーになるべく東京への進学も考えたのですが、私にとって岩手という場所が大事で、被災地が大変な状況の中、東京へ行ってしまったら、現状を知ることも直接的に支援することもできないと思い、ボランティア活動に力を入れていた岩手県立大学への進学を決めました。

ーそれは難しい進路選択でしたね。

岩手にいることで引けを取らないために、岩手の大学に通いながら、東京のアナウンススクールにも通って、アナウンサーになるためにできることは全部やりました。チャンスがつかめそうな場所には積極的に顔を出すようにして、ことあるごとに自己紹介でアナウンサーを目指していますと言い続けていました。言霊という言葉を信じて。

ー岩手にいながら東京のアナウンススクールに通うのは大変でしたか?

東京のアナウンススクールには節約のために夜行バスで通いましたが、何回乗ったか分からないほど乗りました。

スクールでは、アナウンス技術の向上をはじめ、エントリーシートの書き方や写真の撮り方、面接での受け答えのしかたなどを学びました。アナウンサー試験は少し独特なので、最初は目から鱗な情報ばかり。

多くのアナウンサー志望者と出会えたことも本当によかったです。周囲からアナウンサーを目指すことに対してマイナスな反応があっても、自分は人と違う、本気でアナウンサーになるんだという気持ちを保つためには、仲間が必要だったし環境が大事でした。

ー大学時代、岩手ではどのようなことをしていたのですか?

被災地を支援するボランティア活動を積極的にしましたし、ゼミ活動の一環で岩手県内各地の企業の課題解決のためのインタビュー調査・分析などもしました。

所属していた大学祭実行委員会では、広報部に入って様々なメディアに出演しました。ヒーローショーをはじめとしたイベントMCのアルバイトやラジオパーソナリティアシスタントなど、アナウンサーにつながるような活動にも力を入れました。

ーすごく行動力がありますよね

多くの経験を通して、影響力のある人になりたいと思っていました。自分が影響力を持って岩手の魅力や情報を届けられれば、もっと多くの人に岩手のいいところを理解してもらえるようになるのではないかという理由からです。

何でもない人が発信するのと、多くの人に認められた人が発信するのでは、受け手の反応も違うのではないかと考えています。私たち岩手県民が、「岩手は何もない」などと謙遜する文化も素敵ですが、自信を持って「岩手いいところだよ」と言えるような雰囲気を作っていきたいですね。


ラジオ原稿を読み上げる中條さん

ー大学卒業後からNHKに入職されたのですね。

就職活動ではNHK・民放問わず全国各地の放送局を100社以上受けたと思います。当時は毎日エントリーシートを書いていました。大学4年生の12月になってようやくNHK函館放送局での採用が決まり、私にとって函館は第2の故郷になりました。取材を通して地域を知ることが新鮮で本当に楽しかったです。地域ごとに頑張っている人がいて、おいしいものがあって、それぞれ魅力があると実感しました。

ただ、県外に出たことで岩手の良さをより深く感じましたし、震災の日が近くなると、自分が実際に現地に行って伝えたいという気持ちが強まりました。その後、東北に帰ることを決意し、2018年からNHK仙台放送局、2020年から地元のNHK盛岡放送局で働いています。

ー夢見ていたアナウンサーになれて、イメージのギャップなどはありましたか?

正直、ギャップはなかったですね。事前に企業研究ができていたのがよかったと思います。アナウンサーでも、自分でネタを探して取材提案を出して取材にも行くし、カメラを回すことや編集することもあります。そこにやりがいを感じますね。私は人の話を聞くことが好きだし、知った気になっていた地域も全然知らないことばかりで、新しい情報の発見の毎日なので、それを伝えることができて嬉しいですね。

強いて言えば、テレビを通じて見えているものは仕事の中の1割程度だったという気づきがありました。例えば原稿や構成の作成、電話取材、現地でのロケなどが仕事の9割を占めています。裏方の仕事があるのは何となく知っていたつもりでしたが、初めて経験することも多かったので驚いた部分はありましたね。

ーこれまでのアナウンサー経験で印象に残っていることはありますか?

取材している中で時には心がつらくなることも多いのですが、伝えていかなければならないという使命感を思って取材を続けています。私は特に保護犬・保護猫など動物愛護に関する取材に力を入れているのですが、過去にコロナ禍でペットブームが高まったと世間では言われていた一方で、動物愛護団体に取材をしたら、コロナ禍でペットを手放す人が増えたという逆の現状を知る機会がありました。

実際はコロナ禍で職を失って経済的な理由から手放すケースや医療機関勤務で仕事が忙しく家にいる時間が取れないなど世話ができなくなって取り残されたペットがたくさんいる現状があり、大きな衝撃でした。真実を伝えて、興味を持つ人を増やし、現状を少しでもより良くしていきたいです。

ー仕事をするうえでのこだわりなどはありますか?

何回も現場に足を運び、話聞いて実情を知り、先方と信頼関係性を築くことです。時には自分が体を張って体験することでしか伝えられないことがあるので、私は現場にこだわっています。

ニュースを伝える時も、自分が1回でも現場に行っていれば、他の記者が書いたニュースの原稿でも現場を想像して読めるし、現状をよりリアルな情報として伝えられると思うんですよね。ですので、時間がある時はできる限り事前に足を運ぶようにしています。取材先の人が「中條さんだから話す」と言ってくれることが最高に嬉しいですね。

ー同じ道を志そうという方に何かアドバイスはありますか?

アナウンサーになるのは狭き門とよく言われます。だからこそ、目指す過程で心が折れないようにしなければなりません。勇気を出して仲間とつながれる場所や集まりに飛び込んでみるのもいいですね。同じ志を持つ仲間の存在が自信につながります。

また、自分のことを応援してくれる人が一緒にいる環境にいることも励みになります。それは必ずしも親だけではなくて、祖父母、親戚、幼馴染、友人、恋人、先輩、後輩、恩師などでもいいです。自分のためだけだと頑張り続けるのがしんどい時がありますが、諦めそうになった時に応援してくれる人の顔が浮かんでくるとまた気持ちを新たに頑張れることがあると思います。


動物愛護団体へ取材をする中條さん

 

ー最後に若者へのメッセージをお願いします。

全ての経験は未来につながっています。その時は何につながるか分からなくても、あとでやっていてよかったと思うことが必ずあります。

今はまだやりたいことがない人もいるかもしれませんが、意味がないと思わずにまず目の前のことをやってみるのがいいと思います。やりたいことがある人は声を大にして発信していきましょう。声にすることで自分が達成するために頑張ろうという覚悟が生まれますし、必ず仲間や応援してくれる人と出会えるはずです。

投稿:Co.Nex.Us運営