2022.3.8(火)

NORAがこだわる現代に蘇る「襤褸(ボロ)」への想い  工藤雄太さん

    

何か新しいことをはじめている人、何かを発信している人。そういった人の多くは、何かしら自分なりの「哲学」を持っているように思えます。「自分が大切にしたい哲学」を考え、見つけることは新しいことを始めるときの手がかりになるのではないでしょうか。「いわてつがく」は、そんな思いのもと、さまざまなフィールドで活躍する人たちの「哲学」を紐解いていく連載です。

工藤 雄太(Yuta Kudo)

株式会社工藤 代表取締役

NORA~atelier&shop

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

プロフィール:岩手県盛岡市生まれ。高校卒業後、将来アパレル業界に携わりたいと思い上京。生産から販売までの業務を幅広く経験した後Uターン。現在は、鉈屋町でNORA~atelier&shopを運営。日本の古い布「襤褸(ボロ)」を現代向けにアレンジし、服作りをしている。長い時間をかけて醸し出す古布の魅力を引き出すため、付属類やボタン、糸なども古布に合うものを選び製作。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーNORAの仕事にたどり着くまでの仕事について教えてください。

高校生の頃、雑誌でストリートスナップの聖地である原宿交差点に憧れがありました。実際に家族で遊びに行って改めてアパレルに魅了され、将来は東京でアパレル業界に携わると決めました。18歳で上京して、原宿のアパレルショップに自ら、売り込みをかけて働き始めたのがアパレル人生の始まりです。ヤングカジュアルの店で販売、営業、倉庫管理など仕事全般の流れを学びました。また、国内だけでなく、海外の仕事もあり多くの事を経験させていただきました。その後、デニム加工場、道玄坂のユニクロ、洋服の直し屋に勤めました。最初はアパレルショップで働くことに憧れがありましたが、様々経験していくうちに、ミシンで縫製する仕事が楽しく、自分に合っていることに気づきました。その後、30歳になったタイミングで岩手に戻り、知り合いに縫製工場を紹介してもらいました。最初は希望していた縫い担当でしたが、裁断する人が辞めてしまったことから、自分が裁断担当になりました。ハサミで布をただ切るのではなく、生地を無駄にしないために、どうすれば効率的な裁断ができるかを学びました。

ーNORAを立ち上げたきっかけとは?

様々な経験を経て、本格的にものづくりに興味を持ちました。インスタでボロボロのジャケットを着ている人を見つけて「襤褸=ボロ」という言葉に出会いました。襤褸とは、昔の農家の人が使っていた布のことであり、これで何か作りたいと思ったのがきっかけです。現在も日本の古い布を使って何かを作っている人は多いのですが、テイストが和風の物でした。素材は良い物なのでその素材を生かしつつ、現代に合った服を作ってみたいと思い始めました。自分で作った服を毎日かかさずインスタに載せると少しずつ反響があり、改めてこの布は本当に面白いと思いました。お店を始めるにあたり、産業支援センターに起業アドバイスをもらいました。ちょうどその頃、起業相談をしていた担当の方からSDGsの取組が始まったということで、もりおかSDGsファンドを勧められました。襤褸をリメイクすることが自然とSDGsに掲げられている資源の再利用に繋がりました。また、鉈屋町に来て一年半ですが、この界隈を歩いてみると古い町並みがあり、風情を感じます。鉈屋町が盛り上がり、地域おこしに繋がれば良いなと思います。他県の知り合いからは、盛岡は古い町並みや文化が残っているとても良い町だと言われました。そのような歴史がある場所で、このNORAというお店が持てて良かったです。

工藤さんが手縫いで作業をしている様子

ー工藤さんが自分のお店を持つまでに苦労したことは?

自分のお店を立ち上げてから必死でやってきました。体力的には大変でしたが、自分が好きなことに打ち込めている時間は非常に楽しかったです。平日の仕事終わりや週末に洋服を製作し、月1回東京のイベントに出店するといった生活を1年間続けました。お店を改装する際も、埃まみれになりながらリノベーションを進めましたが、自分のイメージしたお店を想像しながら、行う作業は楽しかったです。一番大変だったことは、仕入れルートがない中での生地の仕入れでした。最初はヤフオクで生地を購入していました。調べていくうちに専門の布を扱っている業者さんを知り、東京のイベントに出店する際は骨董市にかかさず通って、各地の業者の方から生地を買い仲良くなり情報を集めました。

襤褸(ボロ)で作ったポーチ

ー工藤さんが大切にしていることを教えてください。

自分の感覚を大事にしています。固定概念にとらわれず柔軟に物を見れるようにしたいです。洋服を作る時、布を見る時も年代や評判にとらわれず自分の中で良いと思ったものを使おうとしています。古道具についても、当時のものでもいい表情をしていますし、年代とかではなく、自分の感覚を大事にしたいです。そのために、服以外にも色々な物を柔軟に見て感覚を養っていきたいです。

洋服と内装がマッチして、おしゃれな空気感が漂う店内

ーこれからチャレンジすることを教えてください。

自分の中で一番力を入れているのが、NORAでのものづくりです。日本の古い服を見ると縫製が上手いだけでなく、特別な雰囲気を醸し出しています。タグが付いてなかったり、いつ作られたのかは分かりませんが、オーラを出しています。今までは当時のパターンを忠実に再現したいと思っていたのですが、その考えは、日本人ならではのものだと最近気づき、とことん洋服と向き合い自分だから作れる服を作りたいと思っています。派手さがなく、嫌みったらしくないモノを作り、とことん洋服の良さを追求していきたいです。現在は、古いミシンを使い洋服を手掛けていますが、新しいことや気に入ったことも取り入れて変化を楽しみながら仕事をしていきたいです。また、お店のコンセプトやディスプレイもどんどん変えていくので、皆さんには来るたびに楽しんでもらえたらと思います。古い家の空気感など居心地がよい空気感をなくさずにやっていきたいと思いますので、今後の展開を見てもらいたいです。

入り口からの見える店内の様子

ー最後に、何か新しいことへ挑戦しようとしている岩手の若者へメッセージをお願いします。

20歳の頃、偶然出会った方から影響を受けた言葉があります。フランスでの仕事を終えた帰りの機内で、隣に座った男性との会話で、忘れられない言葉があります。30代の男性はフランクな方で「感性についてどう思う?」と聞かれました。私はそこで「センス」と答えましたが、その男性から返って来た言葉は、30代後半になると感性がなくなってくるということでした。詳しく話を聞いていくと、年齢を重ねると経験から物事を判断してしまい、決まった考え方しかできなくなると話していました。「なぜ」という感覚を大事にした方が良いと話してくれました。私も機内で隣に座った男性と同じ年代になり、彼の言っていた言葉の意味を理解し始めました。若い方には物事を「なぜ」と考えることを大事にしてもらいたいです。

 

NORA HP:https://nora-iwate.jp/

NORA-antiques- :https://nora-atelier-shop.myshopify.com/

岩手県盛岡市鉈屋町2-19

投稿:Co.Nex.Us運営