2021.11.30(火)

北欧発祥「森のようちえん」に込めた思い   高浜菜奈子さん

    

何か新しいことをはじめている人、何かを発信している人。そういった人の多くは、何かしら自分なりの「哲学」を持っているように思えます。「自分が大切にしたい哲学」を考え、見つけることは新しいことを始めるときの手がかりになるのではないでしょうか。「いわてつがく」は、そんな思いのもと、さまざまなフィールドで活躍する人たちの「哲学」を紐解いていく連載です。

高浜 菜奈子(たかはま ななこ)

つちのこ保育園 代表

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プロフィール:青森県八戸市出身。高校時代に海外に行った経験から、子供の国際問題について興味を持つ。大学時代には、NGOの一員としてカンボジアに1年間留学し、現地の問題を多くの方に知ってもらう活動に従事。現在は北欧教育を取り入れた「つちのこ保育園」の運営に奮闘中。

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ー高浜さんが子供や教育に興味を持ったきっかけとは?

高校の頃、部活でオーストリアに音楽の勉強に行く機会がありました。その際、先生から現地では、スリがあるから気を付けてなどの指導がありました。しかし、私は元から子どもと一緒に過ごすような仕事に就きたいと思っていたので、子供に警戒心を持たなければならないということにショックを受けました。教科書でストリートチルドレンなどの問題について学んでいましたが、実際に現地の様子を目の当たりにし、驚きました。その後、都内の大学に進学後、休学してカンボジアへ留学しました。そこでは、農村部の女性たちが売買される問題を解決するNGO団体のカンボジア事務所で1年間働きました。私は、日本から現地の問題を学びに来る人に、我々の活動やカンボジアの状況を説明するのが役割でした。今思い返すとカンボジアで学んだ事が保育の仕事に活かされています。

カンボジアで現地の状況を説明している様子

ー帰国後どのような活動をされたのでしょうか?

カンボジアでのNGOの任期が終わり、帰国後は南北問題というグローバルな問題を解決する手段は足元(ローカル)にあると考え、地球のしごと大学(ツチノコ保育園の運営母体)で社会人向けの講座運営をしていました。そこでは、これからの循環型社会について考える研修や、各地で地域づくりをしている方の講演会を開催していました。

ーどうして岩手に移住されたのですか?

都内で仕事をしている頃から、いつかは実家に近い三陸付近に戻りたいと考えていました。しかし、八戸市のような地方都市ではなく、少し小さな自治体が良いと思っていました。そこで、地球のしごと大学に参加していた、田野畑村出身でUターンした方に、田野畑村を紹介いただきました。都内に比べ人工的なものが少なく、海や山の自然を大いに感じられ、昔から構想していた野外保育を行う森のようちえんのイメージに繋がりました。今振り返ると大学の時は夜中まで予定が埋まるくらい忙しく生活していましたが、移住したことにより雑念なく集中して仕事ができるので良かったと思います。

屋外で子供たちに絵本を読む様子

ー「森のようちえん」を開園したきっかけは?

子供が主体的に育つ場所という森のようちえんのコンセプトに共感したのがきっかけです。森のようちえんの特色は、まずは基本的に外で保育を行うことです。雨の日でも野外で活動します。雨だから外で遊べないという発想ではなく、どうしたら雨の中でも外で遊べるかを考えます。雨の日は特有の匂いや景観、雰囲気がありますし、雨の日だからできる遊びがあります。自然の中で加減を知ることが出来ます。また、今これしたい、これしたら危ないとか、ここまではできるとかが分かるようになるし、いつも小さいチャレンジをすることになります。日本の保育園では4歳、5歳になると20人、30人の子どもに対して先生が1人というのが基準です。他の幼稚園で働いていた方に話を伺うと、当時は園児20人を一斉に落ち着かせるためにコントロールする保育をしていたそうです。それは仕方のないことだし、先生が悪いのではないと思います。しかし、北欧のデンマークでは5人の園児に対して一人の先生という環境で保育をしています。その人数比だからこそ、子ども主導の保育ができるのだと感じます。森のようちえんも、野外活動ということもあり大人の配置は多めです。

つちのこ保育園のHPに書かれているメッセージ

ー仕事をする上で大切にしていることは?

大人に対しても、子どもに対しても、その人のあるがままを受け止めるということです。競争原理を持ち込みたくないと思っています。字面だけを見れば「それはそうだよね」と大半の方が思うと思いますが、実際比較をしないというのは難しいことです。私たちが受けてきた教育は順位をつける教育でしたし、個性的な人たちが揃うときっと面倒臭い(笑)。本当はそれが普通なのですけどね。その面倒臭さを楽しむのが、生きる醍醐味なんじゃないかなと思います。園児たちには他人と比較して生きるのではなく、大人の顔色を伺うのでもなく、自分の道を進んでほしいです。私たちは、毎日今日の子どもたちはこんな感じだった、あのときの声掛けはどうだったのかなど振り返り、日々修正しながら仕事をしています。保育は瞬発力と言いますか、その時の声掛け一つで子どもへのメッセージが変わります。最近保育者の中で話題になったのは、子どもが「これやっていい?」と聞いてきた時の返し方です。そもそも「これやっていい?」と聞かれた時点で、そこで「いいよ」なんて返したら、保育者と子どもの主従関係を少し感じてしまいます。判断するのは大人ではなく、あくまで子どもです。

子供たちと一緒に体験学習をしている様子

ーこれからチャレンジすることを教えてください。

今検討しているのは、もっとアートの時間を充実させたいと思っています。お絵描きをする時間に子供たちに絵を描いてもらうと、みんな同じ絵を同じ色で書くことに違和感を覚えられます。もっと子供たちが自由に表現や発想ができる場としてアートの時間に力を入れていきたいと考えています。そして、新たに多くの園児を募集するため、保育時間の延長や活動場所の拡大など、入園を検討している方々の要望に寄り添った形で運営していきたいです。

ー最後に何か新しいことへ挑戦しようとしている岩手の若者へメッセージをお願いします。

子どもが生まれた時に感じた命の躍動が、今の私の原動力です。赤ちゃんは生まれ落ちた瞬間から、もしかしたらお腹の中にいる時から、外界へ興味津々で、教えなくてもおっぱいを飲み、寝返りをして立って歩き始めます。自分の人生を生きる力と切り拓く力が人には元々備わっているのだと思います。そんな力を信じて、私自身も成長しながら、挑戦していきたいと思っています。将来、保育士になりたいと思っている方で、森のようちえんに興味がある方がいらっしゃったら、ぜひ遊びに来てください。

自然いっぱいの屋外で創作活動に取り組む子供たち

つちのこ保育園HP:https://www.tsuchinokohoikuen.com

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