2019.12.26(木)

盛岡経済圏に面白い未来をつくる種まきを    高橋和氣さん

    

高橋 和氣(たかはし かずき)

株式会社Wakey代表、「岩手移住計画」監事、岩手大学客員准教授

プロフィール:盛岡市出身。1983年生まれ。筑波大学大学院を修了後、生活用品メーカーに入社し経営企画を担当。2011年の東日本大震災発災後、会社員を続けながら復興支援活動や地域づくりNPOの立ち上げなど、同時並行で複数の仕事を続ける「パラレルワーク」を実践。2017年にUターンし、主に盛岡広域の地域づくりなどに関わる。2019年に自身が代表を務める株式会社Wakeyを設立。

 

 何か新しいことをはじめている人、何かを発信している人。そういった人の多くは、何かしら自分なりの「哲学」を持っているように思えます。「自分が大切にしたい哲学」を考え、見つけることは、新しいことを始めるときの手がかりになるのではないでしょうか。「いわてつがく」は、そんな思いのもと、さまざまなフィールドで活躍する人たちの「哲学」を紐解いていく連載です。

 

震災後、会社員として企業に籍を置きながら、復興支援活動やNPOの立ち上げのほか、UIターンのサポートを行う「岩手移住計画」のメンバーとして、さまざまな地域づくり活動に携わってきた高橋和氣さん。2017年に自身もUターンした後、自分の生まれ育った盛岡地域を中心に、人と人がつながり、互いに磨き合えるような環境をつくりたいと、会社を設立。社会人向けの学習サービスや企業・行政のビジネスサポートを行っています。

 

会社員として働きながら自分のまちのために活動している人はたくさんいる

-2017年に岩手にUターンしたということですが、それまでどんなお仕事をしていたのか教えてください。

大学院を卒業してから、生活用品メーカーに就職しました。会社の経営企画部というところで、予算・組織編成業務や業務改革などを担当しました。そこで働き始めて4年目に、東日本大震災が起きました。当時、会社のCSRなども担当していたこともあって、会社に直談判して出身地である岩手のために働かせて欲しいとお願いしました。そこから、会社に籍を置きながら、震災復興支援活動に携わるようになりました。震災直後は、物資やボランティアのニーズマッチングなど、緊急支援的な仕事に携わり、NPO法人「遠野まごころネット」や、食べ物付きの情報誌「東北食べる通信」の立ち上げにも携わりました。2013年度まではこうしたことに携わりながら、会社員としての仕事も続ける〝パラレルワーク〟的な働き方をしていました。

 

-本格的に拠点を盛岡へ移すことになったのは、どんなきっかけがあったのでしょう。

復興支援活動に携わったおかげで、同年代の人たちと知り合うことができました。そこで、盛岡にも面白いことをやっている人はたくさんいて、会社員として働きながら自分のまちのために活動している人がこんなにいるんだ、ということに気付けたことが、後にUターンするきっかけになったと思います。2014年度からは東京に戻り、また会社の業務中心の生活になりましたが、復興支援でつながった人同士をつなぐ活動を続けました。ボランティアベースでしたが、東京から岩手を盛り上げようと、首都圏在住の岩手県関係者をつなげる「岩手×東京会議」という活動の開催や、UIターンのサポートを行う「岩手移住計画」、さんさ踊りが好きな首都圏在住者を集めた「赤坂さんさ」にも立ち上げ当初から関わりました。

2015年と16年に相次いで両親が他界し、実家をどうしようかということもありました。また、一旦ボランティアとしての関わり方から全て離れて、本業に専念する時間を設けたことで、自分の考え方を仕切り直すことができ、Uターンしようと考えるようになりました。

 

2015年に定期開催していた「岩手×東京会議」の交流イベント

 

-Uターンしてからは、盛岡を拠点に活動していらっしゃいますね。

Uターンしてからは、官民さまざまなプロジェクトに関わりながら、3年間はゆっくりと自分ができることを探していこうと考えていました。復興支援を通じて人のつながりはたくさんできたので、それ以外のことで、盛岡に関することをもっと知りたいという思いがありました。復興支援を通じて一番感じたことは、自分自身はサポートする役割であって、主体的に活動に取り組むのはその地域の人たち、そこに住んでいる人たちであるべきだということでした。だから、自分自身も生まれ育った盛岡と盛岡周辺の地域で活動しようと決めました。

「復興支援ボランティアからの派生コミュニティー」や「東北食べる通信」の活動などを通して、人口減少・担い手不足や地域の閉塞感を解決していくためのアプローチの一つとして、「関係人口」に関するあらゆる取り組みが有効そうだ、という実感があったので、盛岡の関係人口を増やしていくことが、盛岡の未来につながると思っています。盛岡市内や市役所にも、同じような思いを持つ人たちがいて、その人たちと知り合う中で、一緒にプロジェクトを立ち上げようということになりました。それが関係人口拡大に向けたプロジェクト「盛岡という星で」という活動です。

 

関係人口拡大に向けたプロジェクト「盛岡という星で」のロゴマーク

 

地方都市としての盛岡の普段の暮らしを発信する

-「盛岡という星で」は、高橋さんのこれまでの経験がつまったプロジェクトとも言えますが、特に力を入れた点を教えてください。

「盛岡という星で」は、関係人口を増やすことを目的にしていますが、移住やUターンを考える人は、観光地の情報が知りたいわけではなく、盛岡で暮らす人の普段の生活こそが知りたい情報だと思います。そこで、このプロジェクトの第一段階として、盛岡を改めて好きだと思ってもらうこと、第二段階では、そう感じた人たちが集まり情報交換できるコミュニティーや居場所作りにつなげていく、ということがプロジェクトメンバー内での共通認識になっていきました。

ターゲットは首都圏在住の盛岡地域出身者に絞り、Uターン狙いで情報発信することになりました。20~30代を対象としたことで、情報発信する上でのロゴなどのデザインにも力を入れ、インスタグラムでの発信がメインになりました。

移住促進というと、これまでは農山漁村の体験などの話がメインになることが多かったのですが、そうではなくて、地方都市としての盛岡の普段の生活を発信することを重視しています。今はターゲットを広く取りすぎると誰にも響かない時代です。プロジェクトを進める上で、自分たちが伝えたい価値に対して、提供する情報がきちんと合致しているかどうかを、その都度きちんと精査することを大切にしています。

 

-岩手や盛岡の関係人口を増やすためには、今後どのようなことが大切だと思いますか?

すでに地方への定住促進の取り組みは限界に来ていると思います。これからは、人の流れを流動化させていくことが、より大切になっていくと思います。例えば、年に数日か数週間でも、盛岡に滞在してもらって、その間の滞在の質を高めていくことが大切です。これからは流動化する層がどんどん増えていくと思います。そこで、盛岡が重要な「ハブ」の役割を果たしていくと思います。ハブとしての盛岡の関係人口を増やすことが、他市町村の関係人口を増やしていくことにもつながっていきます。中継点としての盛岡が、魅力を発信していくことは、県内の他市町村のためにも大切なミッションだと思います。

 

「盛岡という星で」のメンバーで行ったクロストークの風景(左が高橋さん)

 

社会人になっても学び合い、スキルアップを目指せる場所を

-株式会社を立ち上げたのは、どのような思いからでしょうか?

盛岡の経済圏がもっと面白くなっていってほしいと思ったことがきっかけです。現在、岩手大学の客員准教授も努めていますが、起業家やプランナーは、育成するだけでは実際の活動には結び付かないと思っています。起業家育成セミナーなどもたくさんありますが、そのほとんどが、マインドや考え方についての内容で、実務に関する知識は教えてくれないという、ちぐはぐな状況です。これに危機感を覚えました。盛岡が、ビジョン重視の起業家だけでなく、持続的にこの土地に暮らしていく〝実務家〟が生きやすい土地になってほしいし、そのためには個々のビジネススキルを向上させる必要があると感じたんです。そこで、お金やITシステム、物流などを学びながら、ビジネススキルを高められる場が必要だと考え、「モリスク」という社会人向けの学習会サービスを提供する株式会社「Wakey」を2019年の2月に立ち上げました。具体的には、誰でも参加できる勉強会「オープンラボ」の開催と、ビジネス実務の増強を目的にした会員制の勉強会「ビジネスゼミ」の開催の2つが中心です。

これまでの経験から「実務が出来る人が脚光を浴びる社会にしたい」という思いがありますが、それは実務が伴わないとプロジェクトを立ち上げても、その先が滞ってしまうということをいくつも経験したり見てきたからです。まだ始まったばかりの取り組みですが、徐々に会員を増やして、2020年には本格稼働していきたいと考えています。

 

自分が熱中できることを、恥ずかしがらずに、情熱を持って

-最後に、これから新しいことに挑戦しようとしている岩手の若者へメッセージをお願いします。

今、世界的に見ても日本の国際的影響力は低下しています。それに伴うように、他のアジア諸国に比べ、日本の若者の学ぶ意欲も低下しているように感じています。私もフィリピンへ語学短期留学した経験がありますが、他国の若者はすごく勤勉で、ある程度は自分に厳しくあることも大切だと思うようになりました。今の20代、30代の人には、アジア諸国の優秀な若者と競い合っていかなければならないという、なかなか厳しい未来が待っています。そこを生き抜くために、きちんと準備しておく必要があると思います。

少し前までは、一生懸命やることがかっこ悪いと思われた時代もありましたが、これからは情熱を持てることを真面目に真っすぐに表現することが共感される時代になっていきますので、若い人にはどんどんそっちに向かってかじを切っていってほしいです。自信を持って、自分が熱中することに真面目に取り組んでほしいし、それを応援してくれる人とつながって生きていけばいいと思います。自分が熱中できることを、恥ずかしがらずに、情熱を持ってやってほしいです。

 

モリスク(リンク:https://morisuku.jp/

盛岡という星で(リンク:https://www.instagram.com/planet_morioka/ )

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