2019.8.22(木)

自分の舞台は自分でつくる  日下 慶太さん

    

 

 

日下 慶太(くさか けいた)

株式会社電通関西支社 コピーライター、写真家

 

プロフィール:大阪府出身。1976年生まれ。神戸大学を卒業後、株式会社電通入社。コピーライターとして勤務しながら、全国の商店街で店主や商品をユニークな視点で紹介するポスターを制作し、まちおこしにつなげる「商店街ポスター展」の仕掛け人として活躍。写真家としても活動し、2018年に自身のユニークな仕事と人生を綴った「迷子のコピーライター」を出版。

 

何か新しいことをはじめている人、何かを発信している人。そういった人の多くは、何かしら自分なりの「哲学」を持っているように思えます。「自分が大切にしたい哲学」を考え、見つけることは、新しいことを始めるときの手がかりになるのではないでしょうか。「いわてつがく」は、そんな思いのもと、さまざまなフィールドで活躍する人たちの「哲学」を紐解いていく連載です。

 

コピーライターとして勤めながら、そのスキルを生かしたまちづくりや地域活性化に携わる日下慶太さん。中でも大阪の「新世界市場」や「文の里(ふみのさと)商店街」で行われた、商店街個々の店舗のユニークなポスターを制作し、アーケード内に展示する「商店街ポスター展」はSNSを通じて話題となり、被災地である宮城県女川町でも行われるなど、広がりを見せています。今回は、7月20日(土)に陸前高田市で開催された、いわて若者カフェ「第2回カフェミーティング」での日下さんの講演会の様子を中心に紹介します。

 

 

一番大切なのはいいコンテンツをつくること

情報発信をしようという時に一番大事なことは、広告はほとんどの人にとって邪魔者であるということを念頭に置くことです。みんなCM始まるとチャンネル変えますよね、トイレ行きますよね。ユーチューブの広告映像だって飛ばしますよね。5秒スキップできないからイライラしますよね。ポスターなら0.2秒で判断すると言われているんです。邪魔者だからこそ、見てもらう工夫が必要です。皆さんが広告をスキップするのは、ほとんどの広告がいきなり自慢してくるからです。自分の商品や地域を良く見せたい、というのはある意味「親ばか」と一緒です。「自分たちが伝えることは自慢じゃないのか?」、「他でも同じ事を言っているんじゃないか」と一度「客観的」になり、それが見つかれば「サービス精神」を持って伝えることです。面白い、かわいい、かっこいい、ためになる、なんかへん…なんでもいいです。そして、わかりやすく、短く、シンプルに。「ワンビジュアル、ワンコピー」。写真は一枚。複数入れない。1枚とびきりの写真を入れて、もし言いたいことがたくさんあるなら、それを3枚作れば良いんです。要は「せっかく見てくれた人に楽しんでもらおう」という「サービス精神」です。子どもでも分かるな、とか、おばあちゃんでも笑ってくれるかな?とか。さらに付け加えると、情報発信は、自分が見ている個人的情報でいいんです。地域の情報発信となると、なぜかみんな突然“市長目線”になりがちだけれども、一個人が面白いということでいいんです。みんな情報発信というと構えてしまうんです。「今まで全然文章書いたことない」とか「面白いこと思いつかない」って。でも、ちょっとでも見てくれた人に楽しんでもらおうというサービス精神を持って丁寧に書くことはできるでしょ。例えば、居酒屋のメニューのキャッチコピーとか、モスバーガーの店先に置いてあるメッセージボードとか。だから、みんなも明日から始めましょう。

日下さんの手掛けた商店街のポスター展の作品たち

 

 

「おもしろい」と「社会にいい」=人と人、会社と会社をつなげる

僕がやったポスター展も「おもしろい」だけだったらテレビは取材に来ていません。「商店街の活性化」という「社会にいい」要素があったから、話題になりました。「おもしろい」というのは、笑いだけでなく、「interesting」という意味です。それを掛け合わせて欲しいと思います。「おもしろい」というのは「話題性」、「社会にいい」は「公共性」とも置き換えられます。さらに、おもしろいと自分たちも楽しいし、メディアも取り上げやすい。「おもしろい」ことがあると、人と人、会社と会社をつなげていくことにもなります。僕は「おもしろい」と「社会にいい」を7対3ぐらいの割合をいつも目指しています。人によっては5対5ぐらいの人もいます。それぞれの個性があっていい。陸前高田市においては、被災地復興ということで、みなさんのように地域で活動している人たちは既に「社会にいい」ことはやっています。「社会にいい」だけだと、なかなか人は寄って来ないし、活動も広がりません。でも、そこに「おもしろい」が入るといろんな人を巻き込んでいけます。

自分にしかできないことがあると、ユニークさが生まれる

「おもしろい」と「社会に良い」のほかに、「自分にしかできないこと」があると、ユニークさが生まれます。例えば、私達のようなコピーライターは、商店街のポスターを作って、キャッチコピーを考えて、デザイナーにしかできないデザインを考えました。それを商店街でやったからユニークだったわけです。建築家とか大工だったら、空き家をリノベーションしたり、会計士だったら、商店街の会計を手伝ってあげたりすることも、自分にしかできないことです。それぞれの職業の人が、自分のスキルを生かして、社会に貢献できることをやってほしいと思います。「おもしろい」と「社会にいい」ことと、さらに「自分にいいこと」を足すと、執着心が生まれます。例えば、「おもしろいポスター作って賞を取るぞ」とか、「自分の能力を社外にアピールするぞ」とか。商店街ポスターに関係したコピーライターは50人くらいいましたが、全員が全員、地域のために良いことをしよう、と思っていたわけではありません。「これで広告賞を取ろう」とか、下心があった人もいます。むしろ、人って下心がないと続かないと思います。例えば、被災地でのボランティアに関しても、学生さんが多かったかと思いますが、ボランティアの経験が就職活動で有利になるとか、そういう下心があった学生さんもいたのではないかと思います。下心からでも社会は1ミリでもよくなっているから、僕は全然いいと思っているし、人は自分にメリットがないと動かないし、結局続かなくなるので、むしろそういうことが大事です。

新世界市場ポスター展のポスター

 

 

住民を巻き込むために、敢えて世話になる

地方創生には、地元の人に仕事をさせる、仕事を振る、というのが大事です。新世界市場と文の里商店街のポスター展は成功したかに見えて、実は課題もありました。ポスター展が各店舗の売り上げにつながっていなかったんです。ポスター展に来た人は、お店の前には来てくれても、そこから先は商店主の自助努力だったので、お店によって売り上げに大きな差がありました。そこで、伊丹西台ポスター展では、店主にプレゼンをしてもらいました。もう一つ、それぞれの店主に「お得なサービス」と、「おもろいサービス」を考えてもらいました。例えば「お得なサービス」は、千円以上お買い上げでお花1本サービス。「おもろいサービス」は花占い。そうしたら、いつもと違うお客さんがたくさん来ました。「こちらがあなたのためにポスターを作ります」で終わらせず、「こっちがポスター作ってあげるから、あなたたちも何かやってください」という風にやると、店主もやる気になります。だから、住民にも何かやってもらう、というのを目指して欲しいです。意外と高齢者の方が、何かやりたいと思っている人が多いんです。そこはみなさん、敢えて世話になってください。そうすると、人を巻き込んでいけます。

 

地域をおこす「アホ」になれ

僕も20代のときは全然おもしろい仕事ができなくて、辛い仕事ばかりでした。今、大学生の人達も、働くようになったら、おもしろい仕事がどんどん来るかというと、残念ながらそうではありません。でも、そのときに腐らずに、仕事でおもしろいことができないんだったら、自分たちでやろう、と考えて欲しいと思います。人が誰もいないところとか、誰も歩いてないところへ行くと、いつも自分が一番です。自分一人しかいないと、代われる人がいないから、どこにいようと自分のところに仕事が来るようになります。陸前高田に住んでいようと、東京から仕事が来たりするわけです。だから、僕は大阪にいるけれども、今日ここでしゃべらせてもらっています。ナンバーワンではなく、オンリーワンになってほしい。オンリーワンだったら絶対になれるし、それは世界でもオンリーワンだと思います。恥ずかしがったり、遠慮したりするのって、時間の無駄だし、チャンスを逸しているだけです。今度チャンスが来たらやればいいって思うかも知れないけれど、そんなチャンスはもう二度と来ません。だから照れとか遠慮とか、捨ててほしい。そうしたら、アホになれるし。アホになるって、こっちではきつい言葉かもしれないけど、仙台では「ほでなす」とか、青森では「ほんじなし」っていう言葉で使われています。地域をおこすのは、「他所者、若者、馬鹿者」とよく言われます。だから、みんなにもアホになって欲しいと思います。

 

 

 

-講演後に、日下さんから、新しいことを始めようとしている岩手の若者へメッセージをいただきました。

今、そこでできることをやって欲しいと思います。東京に行かなきゃできないとか、盛岡に行かなきゃできないとか、仙台に行かなきゃできないとかではなくて、できるから。今そこでやって欲しいと思います。陸前高田が失ったまちを作るだけじゃなくて、人の心とか、そういうものに目を向けて、胸を張ってやって欲しいと思います。

 

日下さんの書籍、ブログはこちらから↓

https://www.maigono-copywriter.com/

http://keitata.blogspot.com/

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