2017.2.18(土)

タイトル「いわてびと」

〜 番外編その14  「これからの新しい社会システムをつくりたい」-遠野市 株式会社Next Commons代表 林 篤志さん 〜

    

いわてで活躍するいわての若者や団体を紹介する「いわてびと」めっけ!

※「めっける!めっけだ!」は、岩手県など東北地方の方言で「見つけた!」「発見!」という意味。

番外編では、いつものコネックさんではなく、岩手県庁の若手職員が若者を取材しています!
遠野市に移住し、これからの新しい社会システムづくりという壮大なプロジェクトに取り組んでいる林篤志さんをめっけ!

林さん1枚目

 

林篤志(はやし あつし)さんは、愛知県の高専を卒業後、東京のIT企業にSEとして就職し会社員として過ごすうち、“自分は本当にやるべきことは他にあるのではないか”と考え退職。そこから、「自由大学」の立ち上げ、高知県土佐山の「土佐山アカデミー」の発足・運営などに関わりソーシャルイノベーションを実現させてきた林さん。現在は、遠野市に居を構え、これからの新しい社会システムづくりという壮大なプロジェクトに取り組んでいます。林さんのこれからにかける熱い思いを語っていただきました。

 1 遠野との出会い
-高専卒業後、東京のIT企業に就職した林さん。そこから、自分が“おもしろそう”だと思うことを追いかけてここまでやってきたそうです。遠野との出会いはどのようなきっかけだったのでしょうか。

私は愛知県出身なのですが、高専の情報工学科を卒業して、東京のIT企業に入社しました。そこに2年ほど在籍していたのですが、同僚や先輩が本当にコンピューターが大好きで仕事に取り組んでいたんです。もちろん私も仕事に真剣にやっていましたが、彼らの熱意がとにかくすごくて。その環境の中で、自分はこの仕事よりも本当にやるべきことが他にあるのではないかと考えて会社を辞めたことが、現在に至る始まりです。

なんとなく“教育”という分野に興味は持っていたので、会社に勤めながら、いろんな立場の人に会って学びを得るような場を創ろうと、一般の人が普段の生活であまり関わりを持たないような人たちを講師にお呼びして、その人の人生から学ぶといった趣旨のセミナーを開催していました。でも、講師がヤクザの組長とか、ホームレスの方とか、人選が突き抜けすぎたんですね(笑)。強烈な講師たちのお話は刺激的でしたが、もっと多様な人々が互いに学ぶ場を創りたいと思って、いろいろ調べているうちに、家具ブランドIDEE創業者の黒崎輝男さんと出会い、意気投合。一緒に「自由大学」を立ち上げました。

その後、“食”に興味を持ち始め、ビジネスパートナーと会社を立ち上げ、農作物の在来種や固定種の保存・伝承事業や、各地で動きがあるオーガニックの取組を広げていく活動に3年ぐらい携わりました。その活動の中で、日本中を訪問し、初めて遠野にも来ました。また、仕事を続ける中で、東京の人々のもつノウハウと地域に残された技術や埋もれた地域資源を繋げて何かできないかと感じました。この想いを胸に、新たな行動を起こし始めたのが2009年のことでした。

※ 自由大学:2009年東京に開校。「大きく学び、自由に生きる」をテーマに、知的生命力がよみがえるユニークな講義を展開する学びの場として、自ら考え、自ら行動する姿勢を育む場所を創っている。

 


 

林さん2枚目

 2 Next Commons Lab(NCL)の取組のはじまり
 -高知県土佐山で取り組んだ土佐山アカデミーの成果をベースに作られたNext Commons Lab。いったいどのように取組がはじまったのでしょうか。また、どのような想いが詰まっているのでしょうか。

2009年には、「何かしらスキルを持った都市部の人を、地方の現場に送り込んで地元の人達や地域にあるものを生かして新しいプロジェクトや価値を生み出す場を創る」というところまで構想を発展させました。構想実現のための実施場所の選定を進めていましたが、高知県庁からの紹介をきっかけに、2011年に高知県土佐山で「土佐山アカデミー」という形で取組を始めることができました。コンセプトは“人間が自然と一体となり、持続的に暮らしていく方法を学び実践する”というもので、内容としてはワークショップ、ワークステイ、エッジキャンプなどがあります。ワークショップは学びの場、ワークステイは、移住して活動するための人の拠点として、地元の人たちの住宅を借りて、リノベーションを行いシェアハウスとして提供する取組です。エッジキャンプは地方で起業する人に特化したプログラム、自分で仕事を作れるスキルを身につけることが目的です。「土佐山アカデミー」は、これまでに、のべ6千人ぐらいの方に来ていただいて、そこから約30組が移住しています。

しかし、土佐山アカデミーや地方に人が動いていることは、一部の人にしか知られていない。社会全体の中では認知度と影響力が低いと感じました。これは、各地域のプレイヤーの活動が点となってしまっていることが大きい。各地で点となっている活動を共通のコンセンサスをとって、全国各地で連携できる全体の最適な仕組みを作ることが必要で、もっと、より多くの人達に活動を知ってもらって、関心を持った人達が実際に動ける社会インフラを作りたいと思いました。それが「ポスト資本主義社会の具現化」を掲げる、Next Commons Labの取組です。NCLを立ち上げるにあたり、オーガニックの取組で何度も足を運んできた遠野市を最初の場所に選びました。


 

NCL概念図(Next Commons Labの概念図)

 3 Next Commons Lab(NCL)の取組とは?
 -ポスト資本主義社会を実現するために作られたNext Commons Lab。現在、遠野でその取組が進んでいます。いったいどのような取組なのでしょうか。林さんに詳しく教えていただきました。

ポスト資本主義社会とは、既存の国家や、資本主義市場の上にさらに3つ目の社会構造(システム)を持つ社会です。具体的にはNCL(新しい共同体)を全国各地で立ち上げ、各NCL同士がつながることで、人材・情報・素材・知恵などが自由に行き来する社会です。NCLを機能させるために3つのツールを用意しています。1つ目は、産業創出を実現するためのインキュベーションです。既存の「地域おこし協力隊」制度や、「ローカルベンチャースクール」の展開、民間企業との積極的なコラボレーションを使って起業家に対する資金・コーディネート・メンタリングサポートを行います。また、地方に点在する空き家などの遊休不動産をインキュベーションスペースとして、活用していきます。2つ目は、地域資源の可視化と、人と人のマッチングを促すためのコミュニケーションです。テクノロジーを用いた地域資源の可視化と、NCLメンバーを中心とする人々のニーズやスキルのマッチングプラットフォームの開発を行います。3つ目は、遊動人口を増やすために拠点(インフラ)の整備です。地域にある遊休施設や空き家を、暮しと仕事の拠点として整備するほか、モバイルハウスビレッジの開発、全国のNCLメンバーの都市部での拠点整備を行います。これら3つのツールがNCLをスムーズに機能させていく仕掛けとなります。

現在、最初のNCLが遠野で立ち上がっていますが、創業メンバーを募集した際には十数名の枠に対して480名を越えるウェブエントリー、83名の最終応募がありました。海外からの応募もあり、その関心の高さに驚きました。メンバーには将来、それぞれ起業して独立してもらいます。もちろん、起業がゴールではなく、そこから新しいチャレンジのスタートです。ビジョンを持って、地域社会や地域経済の担い手として活躍してもらうわけです。


ミーティングの様子1

ミーティングの様子(写真提供Next Commons Lab)

NCL Cafe

Commons Café(写真提供Next Commons Lab)

  4 Next Commons Lab(NCL)今後の展開

―ようやく動き始めたNext Commons Labの取組。ポスト資本主義社会の実現に向けて活動をどんどん活発化させていく予定の林さん。これからの展開について考えを伺いました。

NCLの取組みは第1号が遠野ですが、同時にもう1ヶ所立ち上げを進めています。2017年には、東京にハブ拠点を作り、さらに全国6カ所でNCLを始める予定です。そして、3年後の2020年には全国で100カ所のNCL、1000人の起業家、10000人のコミュニティを実現するのが目標です。

昨年、日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2016で特別ソーシャルイノベーターの優秀賞に選んでいただきました。今後は参画してくれる仲間をさらに増やし、取組を加速化させていきます。


とにかく、おもしろそうと感じることを追いかけてきた林さん。地域活性化という意識は特にないそうですが、いろいろ取り組んできたことが、結果として地域の活性化につながっているとのこと。自身は地方の可能性にとても魅力を感じているそうなので、そこが地域活性化につながる取組の原点になっているのかもしれませんね。おもしろいと感じているからこそ、お話をしている姿から終始、熱意があふれていました。話を聞いていると思わず私も参加させてくださいと言いたくなるとても魅力的で笑顔が素敵な林さんは、どんなことでも実現してくれそうな地域活性化の仕掛け人でした。

土佐山アカデミー    http://tosayamaacademy.org/

Next Commons Lab  http://nextcommonslab.jp/