2017.1.25(水)

タイトル「いわてびと」

〜 番外編その10 ひととつながる農家を目指して-紫波町・わとな自然農園 伊藤めぐみさん 〜

    

いわてで活躍するいわての若者や団体を紹介する「いわてびと」めっけ!

※「めっける!めっけだ!」は、岩手県など東北地方の方言で「見つけた!」「発見!」という意味。

番外編では、いつものコネックさんではなく、岩手県庁の若手職員が若者を取材しています!
家族で紫波町に移り住み、「わとな自然農園」を営む伊藤めぐみさんをめっけ!

 

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 伊藤めぐみさん(写真左)とご主人の由和さん

 2013年に紫波町にて夫婦で新規就農した「わとな自然農園」の伊藤めぐみさん。静岡県のサラリーマン家庭で育ち、北海道の大学で設計を学び、建築関係の仕事をしていた彼女が岩手の大地に根をはり、四季とともに生きる農的な暮らしを選んだ理由とは。また、これからの目指す姿や、新規就農者のリアルな視点について語っていただきました。

 

 

1 農業との出会い

 農業とは縁もゆかりもなく生まれ育った伊藤さん。現在はご主人とともに紫波町にて無農薬野菜と自家製天然酵母パンを作り、一家で農的な暮らしを満喫しています。そこに至る経緯はどのようなものだったのでしょうか。

生まれは北海道だったのですが、父が転勤族だったので全国を転々とし、小学校3年生からは父の出身地である静岡県で育ちました。大学では建築を学び、卒業後は地元に戻り、設計事務所で働いていました。結婚後、主人の仕事の都合で(またもや)東北各地を転々としていたのですが、あるとき私が体調を大きく崩してしまい、通常の生活を送ることが難しくなってしまいました。どうすれば元の健康な体に戻れるだろうと試行錯誤の日々でしたが、この出来事をきっかけに真剣に自分の体と向き合い、食べるものや着るものなど生活を見直すことにしました。そんな中で出会ったのが「有機野菜」でした。その時はちょうど有機野菜が盛んに作られている福島県で暮らしており、福島市が主催している週末農業塾に主人が通ったのが私たちの農業の第一歩でした。

はじめは、一消費者として家庭菜園を楽しむ程度だったのですが、子供が生まれ、農業にふれ合ううちに、自然のサイクルから切り離された生活や、平日は家族で過ごす時間がほとんどない生活に疑問を抱き、必要なものをできるだけ家族で作っていく農的な暮らしに強い憧れを持つようになりました。そして主人と話し合い、こんな世の中だからこそ自分たちのやりたいことをやろう、そう決意して主人の出身地である岩手県にやって来ました。

 

 

2 農薬や化学肥料に頼らない野菜にこだわりたい!
 並々ならぬ決意で岩手県の大地を踏みしめた伊藤さん。しかしながら、理想とする農業を実現するには数々の困難が待ち構えていました。

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まず、それまでは比較的安定した生活をしていたので農業をはじめると両親や知人に相談した時にはみんなに猛反対されましたね(笑)。そういうみんなを説得して、どのようなカタチで農業をやっていこうか?と考えたときに、自分たちの原点である自然的な農業にこだわることにしました。ただ、農薬や化学肥料を使わずに野菜を作りたいと言っても相談できる場所がなく、どのように始めるか途方に暮れていました。そんな中で、紫波町の農林公社さんは熱意をもって私たちの相談に乗ってくれ、住む家と農地を一緒に探してくれました。今の家はもともと住んでいたおじいちゃんがニンニクなどを作っていて、ありがたいことに作業小屋やトラクターも一緒に譲ってくれることになりました。

そして、環境が整ったところで、いざ野菜づくりをはじめると草と虫が本当に大変。それでも、納豆やトウガラシを混ぜた防虫スプレーなどを自作したり、化学合成された農薬に頼らずにいかに野菜を育てるか試行錯誤の日々でしたが、周りの農家のおじいちゃん・おばあちゃんに声をかけてもらえるようになり、アドバイスをもらえるようになってきました。そのおかげで、岩手の気候や風土に適した農法や作物を学ぶことができて、うまく育たなかった野菜も徐々に元気に育つようになってきました。また、今では母が時々静岡から農業を手伝いに来てくれて、一緒に岩手ライフを楽しんでいます。

理解して応援してくれる身内がいて、農業を始めるのに助けてくれる人がいて、そして周りで温かく見守り、アドバイスをしてくれる人がいる。本当に恵まれた環境で農業が出来ていると実感しています。

 

 

3 「私とあなた」~ひととつながる農家を目指して~
 こだわりの野菜や加工品を、心をこめて生産する伊藤さんご夫妻。どのような思いで「農業」と向き合っているのでしょうか。

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現在は、主人が野菜の栽培を担当し、私は野菜の加工やパン作りを担当しています。メインの商品は、ご契約者様に定期的に野菜セットとパンセットを直接お届けすることです。季節に合わせて60種類くらいの野菜をつくり、常に10種類くらいは出荷できるように年間計画を立てて行っています。はじめは友人、知り合いのつてで販売をしていたのですが、徐々に口コミで広がり、最近では子育て世代の主婦の方をはじめとして様々な方々からご注文をいただけるようになりました。

また、盛岡市材木町のよ市をはじめとして色々なイベントでもお店を出して野菜やパン、加工品の販売を行っているのですが、直接お客様と触れあうことで、「おいしかったよ!」と言われて励みになったり、「こんなのが欲しい」と言われて勉強になったり、人とのつながりの中で農業をやっているんだなと実感します。

「わとな」の名前は東北地方の方言で「わ(わたし)」と「な(あなた)」からとっていて、てしごとを通じて人と人とのつながりを大切にしたいという思いからつけています。時々「野菜やパンをネットで販売しませんか?」とお声をかけていただくことがあるのですが、私達は出来る限り「自分達で直接お客様にお届けする」ことにこだわりたいと思っています。お客様と直接つながることで、お客様が求めているものを肌で感じていたいし、自分達が愛情を込めて作った商品の想いを伝えたいと考えています。

 

 

4 今、見えているモノ

 岩手県での農業の世界に飛び込んでから3年。今、伊藤さんが見ている現状とこれからの目標、そして行政に望む事などなど、いろいろ語っていただきました。

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伊藤さんのご自宅から見える風景 小麦畑の向こうに山々を眺む

今、農業女子や移住が話題になっていますが、現実はいろいろな意味で厳しいと思っています(行政の皆さん、ごめんなさい)。私たちは前の仕事のときの貯えが僅かながらあり、幸運なことに多くの方のご厚意に恵まれているからこそ、少しずつですが前進できている感じです。なにより、移住してゼロからスタートする小規模な農家が、農業だけで食べていくことは金銭的に非常に厳しいと思います。また、意外とヨコのつながりが少なく、私達世代の新規就農者でのネットワークがあまり無いように感じます。行政機関から農家が集まるイベントにお誘いいただくのですが、男性だけの集まりがメインであったり平日の開催だったりで、どうしても子供がいる女性が参加するのが難しくなってしまいます。もっと家族ぐるみで交流できる機会があれば、情報や境遇もシェアできるので、より仕事も生活も豊かになると思います。

あと、最近は「6次産業化」とよく聞きますが、私たちのような小規模な農家が様々な法律の中で原料を加工し、販売までするのは労力的にも費用的にも、環境的にも本当に大変なんです。ですので、小さなロットで簡単に商品が試作販売できるような独自のしくみがあれば、小規模でも新しい感覚をもった農家はどんどん成長するのではないでしょうか。

岩手に住んで3年が経ちましたが、一番感じていることは、岩手は本当に豊かな場所だということです。都会では簡単には手に入らないような新鮮でおいしいく、体にとってもいい季節の野菜や果物が近くの産直にぽっと売っていて、四季を肌で感じながら生活を送ることができます。また、この家を選んだ理由の1つが窓から見える風景です。岩手で生まれ育った皆さんからみれば食材も四季も風景も日常の景色かもしれませんが、都市部に住んでいる人から見ると全てが輝いて見えるんですよね。私達は農業を通じて、こんな岩手の魅力も伝えていければと思っています。

 

 

 今は目の前にある1つ1つのことを着実に行い、少しずつ岩手の大地に根を広げている伊藤めぐみさんとそのご家族。いずれは農家カフェを開いて、食べるだけではなく料理教室やワークショップ、収穫体験など様々なイベントを通して岩手の自然を心と体で感じることができる場を作りたいとのこと。農業を通じてひととのつながりを作る、わとな自然農園伊藤めぐみさんの活躍から、今後も目が離せません。

 

「わとな自然農園」のご案内

Facebook:https://www.facebook.com/watonanouen