2017.1.18(水)

タイトル「いわてびと」

〜 番外編その9 「心に響く衣料品をあなたに」-久慈市・ナインオクロック株式会社 代表取締役 香取正博さん- 〜

    

いわてで活躍するいわての若者や団体を紹介する「いわてびと」めっけ!

※「めっける!めっけだ!」は、岩手県など東北地方の方言で「見つけた!」「発見!」という意味。

番外編では、いつものコネックさんではなく、岩手県庁の若手職員が若者を取材しています!
第9弾となる今回は久慈市でアパレルブランドを立ち上げた香取正博さんをめっけ!

01(写真提供:香取正博さん)

千葉県出身の香取正博(かとり まさひろ)さんは美容師として都内で2つの店舗を経営していましたが、2015年に経営を譲渡し、以前から興味のあったアパレル業界に参入します。自身が立ち上げたアパレルブランド「9 o’clock(ナインオクロック)」では、「ありのまま(無地)をよりスタイリッシュに」をコンセプトに掲げ、第一弾として久慈発の国産Tシャツを販売しています。新聞やインターネットなどのメディアにも取り上げられ、県内外から注目されている香取さんの現在に至るまでの経緯や今後の展望について伺いました。
1.「縫製のまち」久慈へ
-美容系の学校を経て美容師として歩みだし、25歳で独立し都内で美容院を経営されてた香取さんですが、なぜ美容院の経営を辞めてアパレル業を始めようと思ったのでしょうか。また、なぜその場所に岩手県久慈市を選んだのでしょうか。

香取:もともと衣料品の販売や流通といったことに興味があり、自分がプロデュースした服を売りたいという夢がありました。アパレル業を始めたのは、夢を実現させたいという単純な理由からです。

服を作る上で“縫製”は欠かすことができない工程ですが、ここ久慈市には縫製工場が数多くあるんです。「岡山=デニム」、「今治=タオル」のように、製品の産地として地域振興をしているところはあるのですが、“縫製”そのものをアピールしているところは、僕が調べた限り久慈市だけでした。2015年5月に「北いわてアパレル産業振興会」が発足し、ホームページの作りこみを見たときに、とにかくやる気のある地域だなと感じたので、ここで作ってみようと思いました。
あとブランディングを進めていく上で「そのブランドがどのようにして出来上がったのか」という思想的背景が大切だと思うのですが単に国産というだけではなく、自治体が主体となり「縫製のまち」を掲げていることに魅力を感じました。久慈市が「縫製のまち」であることは、地元の人にもあまり知られていないようで、逆にそこに、発展性、可能性みたいなものを感じたんです。

02(写真提供:香取正博さん)

2.「くじT」誕生!
-久慈市に移住した香取さんは、国産アパレルブランド「9 o’clock(ナインオクロック)」を創業しTシャツの販売を開始しました。販売から現在に至るまでの経緯、市場の反応、ご自身の手ごたえについてお伺いします。

香取:会社を立ち上げる過程で、国内に流通する国産衣料品の比率がたったの約3%であることを知りました。洋服の約97%が外国製品なんです。25年前までは約50%ありましたが、グローバル化などの様々な経済環境の変化により激減したようです。
現在では、気軽に国産の衣料品を買える場所があまり多くないですし、個人的には大衆が購入できる国産アパレルブランドが少ないなと感じていました。

そこで、誰もが着やすく、誰もが買いやすい国産ブランドを立ち上げました。無地のベーシック商品であれば、シーズンやトレンド、好みにも左右されにくく、将来的に「継続性のある生産」が可能になるのではないかと思い、まずはTシャツをブランディングしました。製作にあたっては色々なメーカーのTシャツを集め、素材や形などを見比べました。そして他社よりもスタイリッシュにしたいというイメージをパタンナーさんに伝えてデザインをしてもらい「くじT」が誕生しました。

03(写真提供:香取正博さん)

最初は東京でブランディングしてから逆輸入して岩手に広めようと思ったのですが、なかなかうまくいきませんでした。そんな中でも買ってくれる人って岩手の人が多かったんですよ。そこで、ターゲットを変えてクラウドファンディングにチャレンジしました。経費はかかるのですが、あらゆるニーズにこたえたい気持ちとデータを取るという意味で、襟の形やキッズサイズを追加するなどして種類を豊富にしました。今後はデザイン性や素材などの違いを、いかに買い手に対して訴求していくかがポイントになりそうですね。

また今はデフレの時代で、安さを最優先する傾向にありますが、それでも買ってくれる人はいるんですよね。やっぱり値段じゃないんだ、というところをもっともっと伝えていきたいです。

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3.訪問美容サービスの展開と地域との関わり
-アパレル以外にも訪問美容も始められるとお聞きしました。

香取:法律では、衛生上の理由で「理美容所以外ではカットしてはいけない」という決まりがありますが、理美容所に行けない人に対しては例外です。そういう人は結構いて、訪問美容の需要はあると思うのですが、そのようなサービスがあること自体なかなか浸透していないと感じています。

老人ホームと提携を組んでやっているサロンもありますが、僕は戸別訪問形式でやろうと考えています。範囲は久慈広域で、まずはカットから。戸別訪問だと認知度が大切になると思うので、訪問美容の屋号も「ナインオクロック」でやろうかと考えています。Tシャツを手売りできるかもしれないし(笑)。岩手ではあまりやっているところはないので、ちょっと面白いかなと思っています。

-ところで、香取さんは首都圏から移住された訳ですが、地域との関わりや行政との関係性はどのようにして築かれたのでしょうか。

香取:岩手に行くと決めたあたりから、東京で岩手出身者が集まるイベントなどに積極的に参加したおかげで、岩手でプレーヤーとして活躍しているいろいろな人たちと知り合うことができました。
この辺の人は、結構みんな自虐的に「田舎だから産業が弱い」とおっしゃいますが、僕はそんなことはないと思っています。若い人たちともたまに会いますが、「盛り上げてやろう」という気持ちをみんな持っていますよ。

久慈市役所も岩手県庁もそうですが、岩手は「行政と民間の距離が近いな」と感じています。特に市役所にはよく行くのですが、市長にも顔を覚えてもらっています。
だからと言って行政に過度に期待はしていません(笑)。行政って、税金を使う以上、みんなで合意形成できていないと支援しづらいじゃないですか。でも、合意形成しちゃうと尖った面白いものがやりづらくなる。だから僕は、自分がやりたいことは自ら動いてやるようにしています。行政には「こういった支援がある」とか「こんなイベントがある」といった情報を提供していただけるだけでいい、と思っています。

4.「MADE IN KUJI」のその先
-今はTシャツのみの販売ですが、今後はTシャツ以外の衣料品もブランディングしていくのでしょうか。また「ナインオクロック」の今後の展望について重ねてお伺いします。

香取:Tシャツ以外のものも考えていますが、まずはTシャツをしっかりとブランディングしていきたいと思います。いずれの衣料品にしても無地一本で上質に仕上げられればと思います。もちろん国産でね。

また、クレジットカードやネット通販を利用しない人も結構多いので、そういう人たちのためにもお客さんが手に取って買える場所が欲しいなと思います。今は3つのセレクトショップで「ナインオクロック」のTシャツを販売していますが、卸売価格を設定して販売しているので、相当数売らなければ儲けにはなりません。なので、いずれは自分の店舗を構えたいと考えています。

それから、縫製工場の工場長の話によると、従業員は最年少の方でも60歳になるそうです。後継者の問題等あると思いますが、いつか「ナインオクロック」が工場を引き継いで、一緒に商品開発したり直販ができたりすると、いろいろな可能性が広がりますね。

05(写真提供:香取正博さん)

目標はたくさんありますがまだまだ先の話です。今はブランドの知名度を上げることに力を注いでいます。お気づきだと思いますが、社名の「ナインオクロック」は「9o’clock=9時=くじ=久慈」につながっています。「ナインオクロック」の名前が浸透することで、久慈の知名度も上がってくれればいいなと思います。

買い手の心に響く「衣料品」を追求する。長く「美」にかかわってきた香取さんには余念がありません。安さを最優先する風潮がある世の中ではありますが、価格だけで勝負はせず本当にいいものだけを作るんだという思いが今回の取材を通して伝わってきました。香取さんが次に仕掛ける衣料品のことを考えると何だかワクワクしてきます。「ナインオクロック」の今後の活動に注目です。

ナインオクロック株式会社 http://9oclock.co.jp/