2017.3.17(金)

タイトル「いわてびと」

〜 番外編その18 The Scientist in the SAKE Brewing (酒蔵の中のサイエンティスト) 〜

    

いわてで活躍するいわての若者や団体を紹介する「いわてびと」めっけ!

※「めっける!めっけだ!」は、岩手県など東北地方の方言で「見つけた!」「発見!」という意味。

番外編では、いつものコネックさんではなく、岩手県庁の若手職員が若者を取材しています!
八幡平市にUターンし、日本酒を製造している工藤 朋(くどう とも)さんをめっけ!

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工藤 朋さん(株式会社わしの尾 代表取締役)

大学卒業後に家業を継いだ工藤さん。社長としてのお仕事と、日本酒についての想い、そして「わしの尾」の道についてお話を聞きました。

 1 工学から日本酒造りへ
-実家に戻り、「わしの尾」を継がれたきっかけは何だったんですか?

県外の大学で工学を専門に学んでいたのですが、祖父が亡くなったのをきっかけに家業を継ぎに戻ってきました。学生時代は酒造りを勉強していなかったので、戻ってきて最初の年には、酒類総合研究所という蔵元の跡取りを勉強させる組織がやっている後継者育成の講習を受けたり、あとは実際に「造り」の現場に入ってどういうことをしているのか手を動かしながら学ぶということをしていましたね。

 -学生時代の経験は活きていますか。

私は工学部出身ですが、学んだ中で役立っていないことはないです。特に、「モノを作る」っていう考え方と、英語が役に立っています。英語は岩手の酒造業では使わないだろうと思っていましたが、岩手県がインバウンドに取組んでいる中、外国の方に日本酒を紹介する機会が増えているので、英語のコミュニケーションが非常に大事になってきているというのがここ数年の印象です。酒造業のことを知らないと、ベテランの通訳さんでも業界用語をうまく英語に訳せないことが多いので、自分で伝えることができるとより内容の深いコミュニケーションができます。

 -ご自分の力を存分に活かして仕事をされているんですね。

これまでに勉強してきたことや経験を活かそうと思ったときに、中小企業は大企業に比べて活躍できる幅が大きく残っています。自分で会社を変えていけるというのが中小企業の魅力ですね。

特に我々は酒造業なので、伝統産業であるという側面と、サイエンスとしての側面があります。両方を行ったり来たりしながら仕事ができるというのが酒造業の面白さではないかなと思います。

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酒蔵見学もさせていただきました。日本酒の原料となるお米について解説中。

 


 2 選ばれるお酒になるために
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酒母(酵母)がもこもこ。

-「社長」として、どのようなお仕事をされているんですか?

日々の作業に入っていったりはしないですが、ポイントポイントで「酒質のここを変えたい」ということを社員の杜氏(とうじ)と話し合っています。

他には、経理や雇用関係の法令がどんどん変わるので、どうやって追いかけていくのかを考えています。あとは、スタッフが気持ちよく働ける環境づくりも考えなくてはいけないし、酒質をどうするかというのも考えなくてはいけないし、売り先をどうするということも……。

「社長業」と言うとざっくりとしていますが、中小企業の社長は会社全般が見えてしまうので、自分で動けることをやる「なんでも屋さん」というのが社長業ではないでしょうか。

-お仕事として、営業はしないんですか?

うちは「セールスをしない」というスタンスでやっています。だから営業職はありません。昔はセールスをしていたのですが、先代の社長が「お酒をお客さんに知ってもらって、お客さんに選んで貰える酒屋になろう」と方針を切り替えたんです。卸(おろし)さんや小売店さんではなくて、直接お酒を飲む人を向いて酒造りをしていこうと。その後、先代は小さいお酒の会を主催して、わしの尾の魅力を口コミで広げていったりしていました。

-お酒の魅力を伝えるために工藤さんがやっていることってありますか?

私が戻ってきてからは盛岡の「材木町よ市」に出店しています。月に1回程度ですが、実際にお客さんと交流しながら我々のお酒を紹介しています。

それと、2010年からは「酒と肴の器」という蔵開きのイベントを始めました。これは今年(2017年)も2/24-26の3日間行いましたが、私たちの蔵を開放してお客さんに来ていただき、私たちのお酒を知ってもらうということをやっています。この蔵開きには特徴がありまして、酒器を作っている作家さんに来ていただいて酒器の展示販売をすることで、おしゃれなお酒の飲み方を併せて紹介しています。

このような形で、「お客さんにうちのお酒を選んでいただけるような方法はないか」と考えることが自分の仕事になってきています。

 


3 良い原料をどう生かすか
-岩手県の酒造業界をどのように見ていますか?

私が戻ってきて11年目になるんですけど、酒質がどんどん良くなっています。岩手のお酒は実に美味しい。その中で、自分たちのブランドの地位をきちんと確保していくために、各酒蔵がそれぞれ努力していかないと難しいという時代になってますね。

-大変な時代を迎えているんですね。

今、お酒造りというのは「ピュア」になってきているんですね。「ピュア」というのは、「人が余計な手を加えない」ということで、良い米・良い水を使うしかなくなってくる。

我々のテクニックというのは、「良い原料をどう生かすか」というところに注力されるべきで、本当に良いものを作るための「補助」に過ぎないことになってくるんじゃないかなと思います。今、我々のテクニックが介在するところがあるとすれば、温度管理をいかに的確にやっていくかとか、できたお酒をどういうふうに処理すれば品質を長く保持できるかというところになっていると思います。

-その中で、「わしの尾」のこだわりを教えてください。

私たちの軸足がどこにあるかっていうと、この「金印」っていう普通酒なんですね。うちはこのお酒を美味しいお酒として作ることでブランドを作ってきた会社です。吟醸酒とか、高価なお酒もちゃんと造っていきますが、そのための機械やそこで得た知見を、普通酒に投入して酒質を向上させていく。

良いお酒を一生懸命造るのは当たり前なんですけど、皆さんに普段召し上がっていただいているお酒こそ、きちっと造るべきではないかと考えています。

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わしの「尾」の金印。飲んだことがある方も多いのでは?

 


4 This is “Washinoo”.
-美味しい「わしの尾」には、ファンも多いです。

実は「岩手県内でしか売らない」っていうスタンスをとっているんです。というのは、今の蔵でできる製造量の限界まで酒造りをしているので、これ以上量が増やせないんです。そういった中で新しい売り先を見つけるよりは、「岩手に来たら飲めるお酒」という形で自分たちのブランドを作っていきたいと思っています。

だから、我々の酒質設計も、「岩手県内で飲んでいただく」というところで考えていかなきゃいけないんですね。お酒を販売する現場がそこまで設備を整えられていないなかで、冷蔵じゃなくて常温でも酒質がキープされるような、そういう「タフなお酒」というのを考えてつくっています。

 -最後に、「わしの尾」のこれからについてお聞かせください。

今、日本酒はブームになっていて、都会では本当に注目されているし、世界中でも注目されています。その中で一番大事なことは「ブレずにやっていく」ことだと思うんです。

「わしの尾といえば金印」と言われているんですが、これが10年たっても20年たってもそういう評価をいただけるようなお酒をきちっと造っていく。そういうところを私たちのベースにしながら、ではそのためにどんなことができるのかを考えていくのが、これからの「わしの尾」の道ではないかなと思っています。

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 岩手にいると当たり前のように美味しいお酒を享受できますが、
その裏には、工藤さんら酒蔵の方々のたゆまぬ努力があります。
 もうすぐ歓送迎会のシーズン。
造り手の思いとともに、杯を満たしてみてはいかがでしょうか。

 

株式会社わしの尾  http://www.washinoo.co.jp/