2017.2.15(水)

タイトル「いわてびと」

〜 番外編その13 岩谷堂箪笥を「選択肢」のひとつに―奥州市・Iwayado craft 三品 綾一郎さん 〜

    

いわてで活躍するいわての若者や団体を紹介する「いわてびと」めっけ!

※「めっける!めっけだ!」は、岩手県など東北地方の方言で「見つけた!」「発見!」という意味。

岩手県庁の若手職員が若者を取材する番外編・その13!
伝統工芸品「岩谷堂箪笥」を継ぎ、新しいIwayadoブランドを展開する三品綾一郎さんをめっけ!

三品さん1

三品綾一郎さんは、岩手県の伝統的工芸品である「岩谷堂箪笥」を江戸時代から代々製作する家系に生まれました。2013年に、岩谷堂箪笥を製作する際に出る端材を利用したブランド「Iwayado craft」を立ち上げ、現在は県内のみならず、仙台、東京にも取扱店を増やしています。岩谷堂箪笥になじみのない世代にも、Iwayado craftを通じて製品の良さを知ってもらおうと、さまざまな活動を行う三品さんにお話をお聞きしました。

 

 

1 岩谷堂タンス製作所に生まれて
―江戸時代中期の天明3年(1783年)に開発され、昭和57年に伝統的工芸品として国の指定を受けた岩谷堂箪笥。開発者の三品茂左衛門の流れを引く三品家に生まれた綾一郎さんは、小さい時から木工が身近にある生活をしていました。

実家は江戸時代から続く箪笥を作る家系で、わたしは初代から数えて13代目にあたります。当時、当主を務めていた11代目の祖父から、ゆくゆくは家を継ぐようにと刷り込まれたこともあり(笑)、地元の工業高校のインテリア科に進学しました。高校進学時は漠然としか考えておらず、継ぐ、継がないは決めていませんでしたが、「かんな」のかけ方や図面の描き方など、基本的なことを学びました。

卒業後は東京に出たいという思いが強く、もともと部屋の模様替えやインテリアが好きだったこともあって、東京のデザイン系専門学校のインテリアデコレーター科に進みました。歴史のある学校で、講師は都内で活躍している有名な方々が多く、様々な家族構成や立地条件でどんな家を建てるかという課題では、お客様を第一に考えるという基礎を学び、今の仕事にもつながっています。

専門学校卒業後は、岩谷堂箪笥を卸している関東の会社に就職し、自社のショールームと営業を2年半ずつ、計5年間働きました。購入していただいた岩谷堂箪笥をご自宅に配送する業務では、どんな生活をする人が、どんな環境で使用するのかを学ぶことができ、この仕事でしか知ることができない貴重な経験をたくさん得ました。

 

 

2 岩谷堂箪笥の職人になること
―東京に出た時点では家業を継ぐことをはっきりと意識していなかった三品さんに、岩手に戻るきっかけとなった出来事がありました。

三品さん2

家族は、私が専門学校を出たら岩手に戻ってくると思っていたようですが、自分としては何かを成し遂げてから戻りたいなと考えていて、そのまま東京で就職しました。しかし、会社の営業として百貨店で岩谷堂箪笥を売っていた時、決して安くはない箪笥の価格と、自分の年齢の釣り合いがとれていないような気がしていました。若い人からこんな高いもの買えないよね、という雰囲気を感じて。特に百貨店では、箪笥を目当てに来るわけではないお客様にどう箪笥の魅力を伝えていくかが難しく、本当に苦労しました。その分、初めて自分の手で岩谷堂箪笥を売った時の嬉しさが心に響き、実家に戻り箪笥を作ろうという決心がつき、25歳で岩手に戻りました。

本格的な箪笥作りは岩手に戻ってから始めました。高校の木工の授業で習ったことは初歩的なことで、実際には自分に合った道具作りから必要なので、またゼロから学ぶ感じです。地元の職業訓練校にも通い、国家資格の2級技能士の資格も取りました。最初は跡継ぎとしてのプレッシャーも多少あり、自分が小さい時から働いていた職人さん達それぞれが良いと思って教えてくださるやり方が異なるので戸惑ったこともありましたが、正解がひとつではない世界なので、自分のやりやすい方法を見つけてひとつずつこなしていけるようになってからは気が楽になりました。何年やったら一人前ということではなくて、本当に納得できるものを毎回作れるかということが大事だと思いますね。

 

 

3 将来、岩谷堂箪笥を買うかもしれない人たちに、今、「Iwayado craft」を
―今、岩谷堂箪笥を購入してくださる方は、自分の祖父や父の代からお付き合いのある方達です。自分と同世代くらいの人達が、将来、「箪笥」を買うような年齢になった時、岩谷堂箪笥がその選択肢のひとつになればと、Iwayado craftを始めたという三品さん。

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国指定の「岩谷堂箪笥」の他に、箪笥を製作している事業者で連携して製作している、箪笥の製作技法を活かしたオリジナルブランドがあり、比較的手ごろな値段で販売しています。ただ、商品がなかなか伝統的な雰囲気から抜け出せない部分もあり、また、卸がメインのものだったので、もう少し自分達で直接発信しやすいカタチでと考え、妻と二人でIwayado craftを2013年から始めました。オリジナルブランドを更に自分達なりにくだいて解釈したもの、という感じです。オリジナルブランドの商品の製作で、県の工業技術センターを利用した時に、Iwayado craftに使えそうな機械を見たこともきっかけのひとつなので、様々なことがつながっていますね。

商品製作は私たちだけで行っていますが、始めてから3年、最初は本当に売れるのかと他の職人さんから言われていましたが(笑)、今では色々なお店から声をかけていただくようになって、よく思いついたなと言われます。また、最近増えている県内のクラフトイベントで販売させていただいたり、その縁で関東からも引き合いがあるので、自分達が動いた意味はあったのかなと感じています。

今、Iwayado craftを通じて発信していきたい世代が、将来、今岩谷堂箪笥を購入してくださるお客様くらいの年代になった時に、選択肢のひとつとして「岩谷堂箪笥」を入れててほしい、知っていてほしいという思いでやっています。実際には、当初ターゲットとしていた若い世代だけでなく、幅広い世代に、また女性だけでなく男性にも購入していただいております。これまで3年間、同じ形でやってきたので、東京のショップ限定の商品を作るなど、今後は新しいことにも挑戦したいなと考えています。

 

 

4 敷居が高いような気がする「伝統工芸」も、若いうちにふれてほしい
―岩手県南エリアで伝統工芸に従事する若手事業者と、体験型イベント「平泉五感市」を2016年12月に初めて開催した三品さん。家業として伝統工芸を間近で感じてきた三品さんに、今後の展望をお聞きしました。

三品さん4

後継者育成が課題になることが多い伝統工芸の中では、岩谷堂箪笥は比較的若手が育っている印象があります。今の職人さん達は自分が小さい時からやっている先輩方ですが、歳をとったからといってだめになる職業ではなく、むしろ熟練していくものだと思っています。感覚的な部分も多いので、なるべく若いうちからこの世界に入ることで誇りにつながる面もあると思うのですが、どうやって興味を持ってもらうかがなかなか難しいです。

もともと、県南エリアの伝統工芸は、箪笥、鉄器、漆器、染め物などがまんべんなくあり、それぞれの親世代が集まって商品開発等をしていました。それが今の私達世代に代替わりして、ゆくゆくは商品開発を目標とするけれど、その前に何か表に出るイベントをしたいという話になり昨年12月に「平泉五感市」を開催しました。伝統工芸品を買うとなると、どうしても単価は高くなってしまうので、体験をメインのイベントにすることで参加もしやすく、興味を持ってもらうこともできるかなと。同世代の仲間だと感覚も似ていてやりやすく、初開催にも関わらず多くの方にご来場いただいたので、また5月に開催予定です!

今はとにかく、やればやる分の反応が返ってきている感触があるので、それをどう箪笥につなげていくかが課題です。現在でも箪笥に限らずベッドや米びつなども作っているので、どれか一つでもお客様にヒットすれば良いなと思っていますが、より柔軟に、岩谷堂箪笥が選択肢として選ばれるような状況を作っていきたいです。

 

岩谷堂箪笥を「選択肢」に、という言葉が印象的だった三品さん。昔ながらの伝統を責任をもって伝承しようとする姿勢と、ご自身の様々な経験や他の事業者との連携を取り入れる新しい視点が、伝統工芸を次世代につなぎ、私達の選択肢を増やすのかもしれません。