何か新しいことをはじめている人、何かを発信している人。そういった人の多くは、何かしら自分なりの「哲学」を持っているように思えます。「自分が大切にしたい哲学」を考え、見つけることは新しいことを始めるときの手がかりになるのではないでしょうか。「いわてつがく」は、そんな思いのもと、さまざまなフィールドで活躍する人たちの「哲学」を紐解いていく連載です。
福山 北斗 Hokuto Fukuyama(写真右)
合同会社TXF ディレクター
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プロフィール:東京都出身。父親が大船渡市で設立した会社に参画するため移住。甫嶺(ほれい)小学校の廃校を活用したBMX施設を建設。現在は「三陸BMXスタジアム」を運営し、国内外で戦えるBMX競技者の育成に繋げようと考えています。
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ーはじめて大船渡を訪れたのは?
私は、元々は家族と共に東京で暮らしていましたが、中学3年生の時、東日本大震災津波が発生し、父親が仕事の関係で大船渡市に単身赴任することになりました。
父から「がれきが散乱した街の姿を見て、震災の恐ろしさを感じた」と聞き、当時は、震災の情報はテレビでしか知ることができなかったので、大船渡がどんな場所なのか知りたいと思い、毎年、父親に会いに大船渡市を訪れるようになりました。
ーなぜ、大船渡にBMXの施設を作ることになったのですか?
父親の会社に寄せられた地域住民からの廃校活用の相談がきっかけでした。
地元の人達の思い出が詰まった甫嶺(ほれい)小学校を活用するため、「今まで東北にない施設」「若者が楽しめる場所」が作れないかと考え、子供から大人まで楽しめるスポーツのBMXにたどり着きました。
私は父から大船渡でBMX施設を作るということを聞き、大学を中退してその事業に参画することを決めました。
ー移住する前はどのようなことに取組んでいましたか?
自分の中では、大船渡にBMX施設を作ることで地域活性化を促進したいと決めましたが、私自身はBMX未経験であり、一度も触れたことがありませんでした。
そこで、秩父にあるBMXのレースコースで2年間住み込みスタッフとして働き、施設運営について学びました。
その頃出会ったのが、BMXプロライダーの桑野孝則くんでした。自分のやりたいことを彼に話し「岩手に本格的なBMXコースを作ろう」と誘い、二人で大船渡に移住しました。
桑野くんは、BMXプロ選手の中でも珍しく、BMXのレースとパークの両方を本格的に行っており、彼の存在は指導者としても頼りになると思いました。
※BMXレース:4人~8人が一斉にスタートし、ジャンプやコーナー等のあるコースを走りタイムを争う競技
※BMXパーク:ジャンプ台を使って様々な技を連続的に行い、難易度の高いテクニックを競う競技
レースコース場での二人(左)桑野さん、(右)福山さん
ーBMX施設のモデルはどこから着想を得たのでしょうか?
「三陸BMXスタジアム」を作る際、アメリカのWOODWARD WEST(ウッドワードウェスト)に影響を受けました。
ウッドワードウェストはアーバンスポーツに特化した施設で、スケートボード、BMX、インラインスケートなどが楽しめます。
大きな敷地内には様々な練習施設があり、プロやプロを目指す若者が夏休みの間に1週間泊まって練習できる夢のような場所です。
そこで私達は、本場のウッドワードウエストの様に、BMXのレースコースとパークコースが一緒にある施設を日本に作る構想を立てました。
廃校の体育館を利用した室内パークコースの様子
ー福山さんが考えるBMXの魅力とは?
私はBMXは、「やる楽しさ」「見る楽しさ」の両方を兼ね備えた競技だと思います。また、競技志向が強いわけではなく、フリースタイルなど格好良さを追求する側面もあります。
自分で体験してみると、怖さに打ち勝つことが求められる局面もあります。激しい競技だからこそ、限界までコースを攻めていく選手の姿を見ると観客のボルテージが上がります。
BMXに乗っている福山さん
ー「三陸BMXスタジアム」を作るまでに苦労したことは?
この「三陸BMXスタジアム」は、設計から施工まで、ほとんど自分たちでコースを作り上げました。
また、東北にはBMXのコースが一つもなく、あまり親しみがなかったので、移住してから2年間は、BMXの認知度を高めるためにストライダーを市内の幼稚園や近隣地域で教えたり、商業施設で教室や大会を開催しました。
この活動を通じて、幼いころからBMXに触れる機会を増やし、子供たちがBMXというスポーツに興味関心を持ってくれるように活動をしました。
※ストライダー:三輪車や補助輪付き自転車とは違い、子どもたちがペダル無しで自バランスをとりコントロールする乗り物です。
子供たちにBMXを教えている様子
ー今年「三陸BMXスタジアム」で大きな動きがあるようですが?
今年のGW期間から夏にかけて、日本のトップライダーを招いてBMXの強化合宿が行われます。
この「三陸BMXスタジアム」は宿泊施設も完備しており、短期間での選手育成に特化した環境を整え、日本人選手がレベルアップするための運営を目指しています。
また、2023年10月には、念願だった大船渡で初のBMX公認レースが開催される予定です。
この大会では、レースの結果に応じて選手にポイントが与えられ、年間ランキングや日本代表強化選手の選考に反映されます。
三陸BMXスタジアムでの集合写真
ー最後に、何か新しいことへ挑戦しようとしている岩手の若者へメッセージをお願いします
私が伝えたいメッセージは、「行動するか、しないかでその後の状況が変わる」ということです。
自らBMXの世界に飛び込み、のめり込んで競技の楽しさを学んだことが、今の自分につながったと思います。
正直に言うと、辞めたくなったこともありましたが、そこで踏ん張って逃げずに前に進んできました。
大船渡に移住してきたということもあり、中途半端なことはできないという「覚悟」が活動の支えになって、ここまで続けてくることができました。
これからは、もっとBMXという競技を知ってもらい、大船渡市をはじめとして、県内各地でも盛り上がるように活動していきたいと思います。