【拠点情報】
運営:NPO法人 みやっこベース(宮古市末広町8-24)
開館日:不定休
開館時間:15:00〜18:00(日により変動あり)
※ Instagram(@miyakkohouse)で開館カレンダーをご確認ください。
【お話を聞いたのは】

NPO法人みやっこベース 地域教育事業部 坂本 紗綾さん
宮古市出身の坂本さんは、社会教育士として、またやる気スイッチコーディネーターとして、若者の居場所づくりや新たな一歩を踏み出すきっかけづくりに尽力されています。
2011年の東日本大震災をきっかけに、「宮古市の役に立ちたい」という強い思いを抱き、県外の短大卒業後、宮古市のFMラジオ局に入社。高校生を起用したラジオ番組制作などを通じ、若者が自らの声を社会に発信する貴重な機会を創り出しました。2023年にNPO法人みやっこベースへ転職し、2025年3月には社会教育士の称号を取得されています。
熱帯魚の飼育や登山を趣味とし、最近はカッターボートに夢中とのこと。週1〜2回、仕事終わりに仲間たちと海に出るそうです。「みんなで同じ方向を向き、力を合わせて前進することにやりがいを感じる」という言葉からは、「人と一緒に何かを成し遂げる楽しみ」という、みやっこベースでの活動にも通ずる情熱が感じられました。
【みやっこベースと宮古市、坂本さんを繋ぐもの】
─── 宮古市との関わりや、地元で活動を始めたきっかけは何ですか?
坂本さん(以下、坂本)
宮古市で生まれ育った私は、高校時代に東日本大震災を経験しました。周囲の大人が復興に向けて動き出す中、何もできない自分に無力感を抱いたことが、今の原点です。「いつか地元に戻り、復興や地域に貢献したい」という思いが、ずっと心にありました。
短大進学で山形へ出た後も、地域のお祭り運営や地域おこし活動に積極的に参加しました。そこで出会った、若者支援に情熱を傾ける米沢市役所の方の姿に大きく影響を受け、「私も若者を応援する人になりたい」と強く思うようになりました。
就職後、宮古市で地域同期との繋がりを作るプロジェクト「ルーキーズカレッジ」に参加し、現在の活動拠点であるNPO法人みやっこベースと初めて接点を持ちました。やはり、震災を経験した故郷・宮古市が私の原点です。いつか戻ってきて復興や地域おこしに関わりたいという長年の強い想いが、今の活動へと導いてくれたのだと思います。
─── ラジオ局でのお仕事のご経験があると伺いました。今の活動に繋がっていることはありますか。
坂本)
短大卒業後に就職した宮古市のラジオ局での経験は、現在の活動の基盤となっています。
特に印象深かったのは、高校生がパーソナリティを務めるラジオ番組をみやっこベースと共同制作したことです。
高校生たちが自ら番組内容を考え、企画し、実際に声に出してリスナーに届ける姿に感動したのを覚えています。「大人が支え、後押しすることで、若い人たちの能力や活動の幅はこんなにも広がるのだ」と心から感じました。この経験は、みやっこベースで若者支援を行う上で、私の指針となっています。
若者が地域について主体的に考え、行動を起こすための「きっかけ」をどのように生み出すかを意識して、日々活動に取り組んでいます。あのラジオ局での経験が、今の私の活動を大きく支えてくれているのは間違いありません。
─── みやっこベースに入職を決めた理由や経緯を教えてください。
坂本)
結婚を機に、夫の転勤で福岡や宮城などを転々とする中で、私の故郷である宮古市に戻ることになりました。宮古市での就職先を探していたところ、たまたまみやっこベースの理事長・早川さんのFacebook投稿が目に入りました。みやっこベース職員を「ゆるぼ(=ゆるく募集)」していたのです。
その瞬間、「面白そう!」という直感に導かれ、すぐさま応募を決意しました。約4年間地元を離れていましたが、早川さんの「地域の若者を応援したい」という理念に強く共感し、「ここでなら、自分も何か貢献できるかもしれない」という思いが芽生えました。
入職の動機は、「面白そうだから」というシンプルな想いです。この「面白い」という感覚こそが、私の原動力となり、現在の活動へつながっているのだと実感しています。

▲児童書から漫画、ボードゲームまで。ジャンルレスな会話が弾みます
【現在の活動について】
─── 現在、みやっこベースではどんな活動に力を入れていますか。
坂本)
みやっこベースの活動の軸は、「地域教育事業」「キャリア支援・企業支援事業」「コミュニティ形成・まちづくり事業」の3つの領域です。
その中でも今最も力を入れているのが、「地域教育事業」の分野です。小学生から高校生までが地域の自然・人・食・産業などを体験し、地域の魅力を知るきっかけを提供しています。
例えば、高校生向けのまちづくりプログラム「みやっこC:LOVE(クラブ)」では、月に一度集まって地域のことを考えたり、実際に企画したりと、主体的に動きたい高校生たちが参加しています。みやこハーバーラジオと共同制作で「宮古の学生くっちゃべる」という番組を作ったり、自分の想いから社会に向けたアクションを形にする「マイプロ(※)」も行っています。
※「マイプロ=(マイプロジェクト)」は、身の回りの課題や関心をテーマにプロジェクトを立ち上げ、実行することを通して学ぶ、 探究型学習プログラムのこと(全国高校生マイプロジェクト | 活動紹介 | 認定NPO法人カタリバより)
小学生向けの「みやっこまるまるクラブ」も活動中です。こちらは自然体験を中心とした「みやっこネイチャークラブ」、地元食材を使った料理教室「みやっこクッキングクラブ」、農家さんと一緒に野菜を育てる「みやっこファーマーズクラブ」、ものづくりを通して創造力を育む「みやっこクラフトクラブ」など多彩なプログラムを行っています。
また、子ども・若者向けのコミュニティスペース「みやっこハウス」では、学校や学年の壁を越えた居場所づくりの活動も行っています。
みやっこハウスの利用者は年齢や住んでいる地域がバラバラなので、多様な価値観を感じてもらいたいと思い、利用者同士の交流の促進を意識しています。また、イベントの企画や館内の環境整備を希望する子どもたちには、「誰にどうなってほしいか」を常に問いかけています。単なる居場所ではなく、「やってみたい」が形になる環境をつくっています。子どもたちが自分で考え、自分で動くという体験を大切にしています。
─── 活動の中で、特に印象に残っている出来事はありますか。
坂本)
特に心に残っているのは、こどものまち「みやっこタウン」のイベントです。
地域の小学生を対象に、遊びながらお金の流れや仕事を学べる架空のまちを作ろうという企画で、閉校した小学校を貸し切って開催しました。
「みやっこタウン」内では、郵便局や消防署などのお仕事があり、納税や選挙などのまちの仕組みにも触れることができます。「ジュニアスタッフ」として運営に関わってくれた中学生の発案で「宝くじ」が実施され、当選した「ベスカ(=みやっこタウン内の通貨)」の使い道に、それぞれの子どもの個性が光っていたのが面白かったです。
まちの中で「なやみ相談室」を立ち上げて起業する子もいました。集客に悩み、落ち込んでしまう場面もありましたが、自分の考えたことを提供したいという強い気持ちが表れていて、子どもたちにとって大きな成長になったのではないでしょうか。イベント後には「達成感があった」「またやりたい」と話してくれた子がたくさんいました。大人が信じて任せることで、子どもたちは力を発揮できることを実感したイベントでした。
─── 連携拠点である「みやっこハウス」では、若者たちにどのような交流が生まれていますか。
坂本)
みやっこハウスには、ひとりでふらっと立ち寄る子もいれば、友達と一緒に来る子もいます。スタッフが声をかけて、初対面の子ども同士をボードゲームなどの活動でつなげることで、自然な交流が生まれています。年齢に関係なく、不登校や家庭の事情で居場所を求める子どもたちも集まっており、「同年代が苦手」という小学生〜高校生が、ここでは安心して過ごせるようになったという声もあります。
あるとき、「みやっこハウスは心の息継ぎができる場所だ」と話してくれた子がいたのが印象的でした。それほど、安心して「自分」でいられる場所がない子も多いのだと思います。
特に小中学生は放課後に行ける場所が少なく、子どもが不登校になった場合保護者も働けなくなるケースがあると聞きます。家庭の背景やスマホの影響による昼夜逆転生活などもあり、学校に行く目的が感じられない子もいます。今求められているのは、子どもたちが「ただ自分で居られる場所」なのだと思っています。
みやっこハウスでは、何かを一緒にすることよりも、その子に向き合うことを大切にしています。近隣の学校にもチラシを配布し、より多くの子ども・若者にこの場所を知ってもらえるよう取り組んでいる最中です。

▲カラフルな手作りのメダル。No.1を讃あう微笑ましい光景が目に浮かびます。
─── 2025年3月に社会教育士の称号を取得されたとのことですが、社会教育士として、若者の居場所づくりや地域活性化に対してどのように貢献していきたいですか。
坂本)
社会教育士の称号を取得する前は、「自分が何か新しいことを生み出さなきゃ」と、常にプレッシャーのようなものを感じていました。しかし講習を受け学びを深める中で、「自分がつくる」というよりは、地域の人の想いや課題に寄り添い、必要な情報や人とのつながりを届ける「伴走者」であれば良いのだと気がつき、すっと肩の荷が降りたのを覚えています。
花巻市で行われた講習では、教師や行政職員、地域の方々と一緒に、地域資源をどう活かしていくかを学びました。すでに社会教育士として活動している早川理事長の姿にも背中を押されました。みやっこベース全体としても、この称号を活かして地域と深く関わり、若者たちが安心して「今」を生きられる環境づくりに貢献していきたいと思っています。
─── 「地域づくり」や「居場所づくり」に関わるなかで、坂本さんが最も大切にしていることは何ですか。
坂本)
「地域づくり」と言うと大きなことのように聞こえますが、私はあまり「地域をつくっている」という感覚はありません。
日々目の前の子どもたちや地域の人たちと関わって、「この場所で生きていてよかった」と感じられるような毎日を積み重ねたい、その気持ちで活動をしているだけなのです。
そして、子どもたちが「宮古っていいな」と思える地域であるためには、大人たちがいきいきと輝いていることがとても大切だと思っています。大人が楽しそうにしていたら、きっと子どもたちも未来に期待できるはずです。だからこそ、「ワクワク」が循環する地域を目指したいと思っています。誰か一人の頑張りでつくるものではなく、みんなの「ちょっとした関わり」が集まって、居心地のよい場所が生まれていくと信じています。

▲皆で書き込める黒板の壁面は、いつも賑やかです。
【連携拠点「みやっこハウス」について】
─── 「みやっこハウス」はどのような設備やスペースがありますか?
坂本)
みやっこハウスは、誰もが安心して立ち寄れるように、入り口をガラス張りにするなど、開放的で温かみのある空間づくりを心がけています。カフェ風の看板を設置したり、入りやすい雰囲気を作っています。
中には学習スペースやイベントができる広間があり、Wi-Fiも完備しています。
おしゃべりや打ち合わせができるフリースペースでは、スタッフや来館者同士で自然な会話が生まれる雰囲気になっています。
毎週水曜日には乳幼児親子のための居場所づくりを行っており、その際には小上がりのスペースを利用します。「小さい子と関わってみたい」という小学生〜高校生が、年下の子ども達のお世話を手伝うこともあり、自発的に遊びに来てくれるのが嬉しいです。こうした多世代が交わる場として、日常の中で自然な学びや関係が生まれている場所です。

▲入り口に設置されている、手書きで温かみのあるカフェ風看板。
─── 宮古市の他の団体や行政、企業とどのように連携していますか。
坂本)
海や山など自然に関する専門知識を持つ方と一緒に自然体験を行ったり、地元の企業と協力して大学生向けのインターンシップを実施しています。
また、宮古市の主催で「ルーキーズカレッジ」という新社会人向け合同研修プログラムの企画・運営をみやっこベースが行いました。早期離職の理由として「年齢の近い同僚がいないため、仕事の悩みなどを話せる相手がいない」という悩みが挙げられています。「地域同期」とのコミュニティを形成しながら、キャリアの自律支援を行うためのプログラムです。このように、地域に根ざしながら、企業と若者をつなぐ取り組みも進めています。
【カフェマスターについて】
─── いわて若者カフェのカフェマスターとして、どのような役割を果たしていきたいですか。
坂本)
本年カフェマスターとなったのは、みやっこベースの理事長である早川さんから「やってみない?」と声をかけてもらったことがきっかけです。宮古の若者たちが、もっと自分らしく過ごせる場所をつくりたいという想いは以前からあったので、自然な流れで「やります」と答えました。
今後は、居場所づくりにさらに若者の声を反映させ、活動のアップデートに取り組みたいと考えています。ただ場を提供するだけでなく、その場でどんな化学反応が起きるかを大切にしながら、若者たちの「やってみたい」を一緒に形にしていきたいと思っています。
─── 実際にどのような相談に乗ることが多いですか。
坂本)
高校生が自分の想いや課題感から始める「マイプロ」の伴走をすることが多いです。
事例としては、「高校生の居場所や交流の機会がほしい」と願った高校生2人が立ち上げた一日限定「高校生カフェ」というプロジェクトの伴走をしました。自分たちで考えた、各々の「推し色」のドリンクを選べる「推しドリンク」の提供や、手作りのクッキーやマフィンの販売を行い、来店者100人を超える大盛況となりました。
▲「高校生カフェ」告知画像。綺麗に映える推しドリンクの写真を使っています。
─── どんな悩みや思いを持っている若者に訪れて欲しいですか。
坂本)
「家と学校の往復だけじゃ物足りない」「もっと誰かと話したい」「やってみたいけど不安」…そんなモヤモヤを感じている人には、ぜひ一度遊びに来てほしいと思っています。
みやっこハウスは、何か特別な目的・目標がなくても大丈夫な場所です。
話すだけ、聞くだけ、ぼーっとするだけでもいいので、誰かと何かをしたいときに、ふと顔を出せるような「心の拠りどころ」でありたいと思っています。
まずは雑談から始めましょう。やりたいことは、話してみると意外と見えてくるものだと思っています。
─── カフェマスターとしての意気込みを教えてください。
坂本)
みやっこベースも今年で法人化から10周年を迎えます。
節目の年だからこそ、新しいチャレンジを恐れずに続けていきたいと思っています。
社会の変化とともに、若者たちの悩みや生きづらさも多様化しています。だからこそ、型にはめるのではなく、一人ひとりに合わせた居場所や支援を模索し続けたいと考えています。これまで積み重ねてきた経験を活かしながら、これからの若者たちと真正面から向き合っていけたらと思っています。
【若者へのメッセージ】
─── 若者が行動を起こそうとする際に、最も重要だと思うことは何ですか。
坂本)
一歩踏み出すときに一番大事なのは、協力してくれる人を見つけることだと思います。自分のやりたいことや想いを誰かに話してみると、意外と「それ、面白いね」「手伝いたい」と言ってくれる人が現れるものです。最初は小さな雑談でも構いません。仲間がいることで、不安や迷いを乗り越えていける力になります。
─── 宮古市や岩手県で何か新しいことに挑戦したいと考えている若者に、メッセージをお願いします。
坂本)
何かに挑戦することは、すごく勇気が要ることだと思います。「失敗したらどうしよう」「自分にできるのかな」と、不安になってしまうのもよくわかります。
でも、ひとりで抱えなくても大丈夫です。
みやっこベースは、そんな若者の「やってみたい」に寄り添い、伴走する場所です。まずは雑談をしに来てくれたら嬉しいです。大きな目標も、一歩ずつなら進めていけます。小さなハードルを越えることの積み重ねが、未来の自信につながっていきます。若者の皆さんのチャレンジを、私たちは全力で応援します。
【終わりに】
地域と若者をつなぐ拠点として、小学生〜高校生を中心とした若者の「やってみたい」を受けとめ、実現に向けて伴走してきた活動には、地域の人々との温かなつながりがたくさん詰まっていました。
坂本さんのお話から伝わってきたのは、「信じて見守ること」の大切さでした。若者たちの「やってみたい」という声に、「どうしようか?」と一緒に考えてくれる大人の存在が、どれほど心強いものか。みやっこベースは、まさに「地域ぐるみで育ち合う場所」になっているのだと感じました。地域に住む私たち一人ひとりが、次の世代の希望になれるのかもしれません。


