2022.6.30(木)

宮沢賢治が好きで、道が拓けた岩手暮らし 塩野夕子さん

    

何か新しいことをはじめている人、何かを発信している人。そういった人の多くは、何かしら自分なりの「哲学」を持っているように思えます。「自分が大切にしたい哲学」を考え、見つけることは新しいことを始めるときの手がかりになるのではないでしょうか。「いわてつがく」は、そんな思いのもと、さまざまなフィールドで活躍する人たちの「哲学」を紐解いていく連載です。

塩野 夕子(Shiono Yuko)

宮沢賢治記念館

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プロフィール:埼玉県上尾市出身。2018年10月に花巻市へIターン移住。花巻市地域おこし協力隊・シティプロモーション担当として、花巻市の情報発信ウェブサイト「まきまき花巻」の編集部兼市民ライターとして活動。宮沢賢治に魅力を感じている人とコミュニケーションを図るため、大迫町の自宅の一部を「賢治文庫」として開放している。現在は宮沢賢治記念館に勤務。

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ー花巻市に移住したきっかけとは?

移住する前は、東京や埼玉で販売員の仕事をしながら実家で暮らしていました。休日の楽しみは、図書館や珈琲ショップで本を読みふけることでした。

23歳の頃、宮沢賢治の童話「銀河鉄道の夜」を読んだことがきっかけに様々な宮沢賢治作品を読みました。そしていつしか宮沢賢治さん本人に興味をもつようになったんです。

2016年に、一人旅で初めて花巻を訪れました。宮沢賢治の故郷ということもあり、市の図書館には宮沢賢治に関する本が信じられないくらい沢山ありました。

その後も何度か訪れるうちに「この土地で賢治の作品を読み深めていけたらどんなにいいだろう」と思うようになって、生まれ育った地から花巻市に移住するという選択肢に辿り着きました。

ー移住後は、どんな風に生活を始めたのでしょうか。

まず、花巻市地域おこし協力隊として仕事を始めました。

私の地域おこし協力隊としてのミッションは、当時すでに運営が始まっていた、花巻市の情報発信サイト「まきまき花巻」を活用したシティプロモーションです。

私は、宮沢賢治の要素を盛り込んだ記事を書きたい気持ちが大きくて、宮沢賢治の話題を中心に編集、取材、執筆を行いました。

協力隊の活動が3年目に入ろうという頃、そのミッションとは別に、賢治ファンが花巻で交流できる場所がほしいと思いつきました。そこで、住居として借りた花巻市大迫町の空き家の一部に「賢治文庫」を作り、無料開放を始めたんです(※)。最初は知り合いや友人が来てくれて、徐々に初めてお会いする方も利用してくれるようになりました。

そうして沢山の人たちと花巻で交流していく中で、花巻市に定住したいという気持ちが固まっていきました。

(※) 現在は新型コロナウイルス感染症など感染症対策のため、利用は予約制。

ー地域おこし協力隊を卒業してからの塩野さんは?

地域おこし協力隊を卒業した後は、もっと自分が住んでいる大迫地域の人と関わりたくて、宮沢賢治と関係なくてもいいから、町内で仕事をしようと思っていました。休日に賢治さんの世界観に浸る生活で全然構わないと。

ところがなんと、宮沢賢治記念館で事務員の募集をしているという情報を聞きつけました。仕事内容も自分がやりたいことだったので、応募しない理由はありません。駄目でもいい、面接だけでも!と望んだところ、ありがたいことに採用していただきました。

宮沢賢治記念館では、様々な分野の視点から宮沢賢治について教えてくださる講師の方を花巻市内の小中学校・高校に紹介する、「賢治の世界」セミナーを任されています。また、年に2回発行している、「宮沢賢治記念館通信」に寄稿してくださる方への依頼、編集などを担当しています。

記念館には、全国から宮沢賢治を好きな方が沢山訪れます。そんな場所で働くことができて本当に幸せです。

ーこれからチャレンジしたいことを教えてください。

今後は小さい規模でもいいので、「賢治文庫」として行うイベントを企画していきたいです。

例えば、山に登って宮沢賢治が見た風景を感じるフィールドワークをしたり、宮沢賢治が聴いていたものと同じクラシックのレコードをお持ちの方にお願いして観賞会をしたり。賢治好きが集まる場をこれからも作っていきたいです。

宮沢賢治に詳しくても、よく知らなくても、どんな世代の方も、楽しく話ができることができたらいいなと考えています。

ー最後に、何か新しいことへ挑戦しようとしている岩手の若者へメッセージをお願いします。

私は、宮沢賢治さんが好きという理由だけで花巻市に移住しました。

自分の好きなことをひたすら毎日続けていたら、いつのまにか自分だけじゃなくて人の役に立つような方法を考えている自分がいました。それが仕事として成り立たなかったとしても、初めはいいんじゃないかな。

「どんな仕事をしながらでもいいから、やりたいことをやめない。」私はそう思いながら定住を決めました。

「これをやりたい!」と決めたら、口に出して周りに公言してみてください。意外と自分の意思を引っ張り上げてくれるものです。

それから、情報は全てインターネットにあると思わず、直接足を使って会いに行って、話を聞いた方が良いです。自分ではわかっているつもりでも、実際の事情はまったく違ったりすることがあります。

はずかしいとか、かっこわるいとか、失敗したらとか色々考えると思いますが、初めは誰だってそうです。そんな自分も愛おしく思える日がきっときますよ。

私はそんな、かっこわるくてもめげずに直向きな自分が好きです。

 

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