2022.2.3(木)

生まれ育った東京を離れ、ものづくりの道から漆掻き職人の道へ 秋本風香さん

    

何か新しいことをはじめている人、何かを発信している人。そういった人の多くは、何かしら自分なりの「哲学」を持っているように思えます。「自分が大切にしたい哲学」を考え、見つけることは新しいことを始めるときの手がかりになるのではないでしょうか。「いわてつがく」は、そんな思いのもと、さまざまなフィールドで活躍する人たちの「哲学」を紐解いていく連載です。

秋本 風香(Fuka Akimoto)

二戸市地域おこし協力隊:うるしびと(漆掻き職人の技術習得)

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プロフィール:東京都生まれ。高校と大学はものづくり・美術関連の学校へ進学。大学卒業後は、自分がやりたいことに向き合い、縁もゆかりもない二戸市浄法寺へ移住。現在は二戸市の地域おこし協力隊として、漆掻きの技術を習得するため奮闘中。

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ー秋本さんが漆掻き職人を目指すこととなったきっかけとは?

私は東京で生まれ育ち、高校と大学はものづくりや美術関連の学校に通っていました。大学2年生のある日、教授との進路面談で漆芸に興味があることを伝えたところ、教授の奥様が漆芸家であることを教えて頂き、教授の奥様の展示会に招待されました。その会場で紹介された教授の奥様は、実は私が好きだった漆芸家であったためとても嬉しかったのを覚えています。展示会では、漆芸家さん達が漆の話をしていて、「国産漆を使っているか?」という会話を耳にしました。「個人では手を出しにくい」「値段が高い」「国産の漆が足りない」ということを初めて知りました。そこで、インターネットで「漆 採る 仕事」で検索したところ、浄法寺漆のホームページが出てきました。そこで漆掻きという仕事を知りました。浄法寺以外の地域では塗師の紹介はあるものの、本職として仕事をしている人が少ないので掻きの仕事はヒットしませんでした。職人の募集があるのなら応募しようとホームページを探しましたが、前年のものしか見つからず、当時既に大学4年生の夏だったので、「今年もきっと募集があるはず」と信じ、進路を心配する教授達にはこれに応募しますと宣言しました。今振り返れば、漆芸家の方々から「国産漆を使ってみたい」「国産漆の流通がない」と聞いたことが私の転機になりました。

ー漆掻きの仕事について教えてください。

6月中旬から漆を掻き始めて、11月下旬頃までには掻くのをやめます。その後11月~12月までに、その年に掻いた木を倒す作業があります。漆掻きのメインの仕事は半年しかありません。それ以外の時期は人によって異なりますが、夏は漆掻き、冬は実家の手伝いや、地元の酒蔵(南部美人)を手伝っている方もいるようです。協力隊である私は、春秋に漆の植栽イベントや、苗畑の手伝いをしています。また、毎年10月には浄法寺漆共進会が行われ、その年に採れた漆の批評会があります。その際、参加者から漆のサンプルをもらい、冬にその成分分析を行っています。

漆の木を削り(辺付け)漆を掻く様子 ※画像提供:二戸市

ー漆掻きの仕事の魅力について、どのように感じていますか?

漆掻き職人になろうと思っていたときは、全国的に国産漆が足りていない状況に貢献できることに魅力を感じていました。後継者がいない地域に、新しく職人として入ることが格好良く思えました。しかし実際に浄法寺に来てみると、浄法寺漆をめぐる状況はずっと深刻であることを知りました。2018年度から国宝重要文化財等の修理に、原則として国産漆を使うとされ、それまで右肩下がりだった国産漆の需要が急増。年々職人も増え、生産量は増えていますが、まだ国の求める年間の必要量には足りていません。いつか自分が採った漆が重要文化財に使われることを考えるとわくわくします。また、国産漆の量が増えてきたら、私が採った漆を好きな漆芸家が使ってくれるかもしれません。そのようなことを想像しながら仕事をすることが楽しいです。

ー仕事をして大変だと思うことは何でしょうか?

初年度は作業を覚えることに苦労しました。その中で特に大変だと思うことがいくつかあります。1つ目は最後の伐採作業です。漆掻きを終えた後木を倒すのですが、重心を見極め木を伐採することが大変です。伐採後の木の活用方法についても、今みんなで考えているところです。地主さんの許可を得て、薪にしたり、切った木を持ち帰ったりします。漆の幹は黄色なのでそれを利用し、染め物にしている会社もあるようです。2つ目は朝早いことです。私はそれほど早くはない方ですが、早い時は6時から仕事をすることもあります。特に朝早い人は、暗い時間から山に入り、日の出から掻き始める人もいます。夏は特に漆が良く出るので、朝から夕方まで掻くこともあります。量としては時期や日にもよりますが、盛りの時期はタカッポ(掻き樽)と合わせて1キロ超えることがあります。

滴生舎にて、漆掻き道具を使った手元

ー秋本さんが仕事で大切にしていることは?

「漆の一滴は、血の一滴」という言葉があるように、私たちは木の命を頂いていると思って仕事をしています。早くても樹齢15年から30年の木をたった半年間で、掻き倒してしまうので、漆をできるだけ無駄にしないように心掛けています。また、2020年に無形文化遺産に漆掻き技術が登録されたこともあり、注目度は高いので外に発信できればと思います。特に二戸の人たちに漆掻きをよく知ってもらうことが大事だと思います。2021年11月に、世界遺産に登録された御所野遺跡で生木を立て漆掻きの実演をしました。参加してくれた方は、二戸市や八幡平市など近隣の方が多かったのですが、漆掻きを実際に見たことがない人がほとんどでした。近年、新しく漆掻きを始める人のほとんどは県外から来た人です。浄法寺二戸市出身の方もいますが、若い方はあまりいません。もちろん私たち協力隊のように県外から漆掻きを目指すのも良いと思いますが、地域の伝統技術や文化を繋いでいくためにも、地元の若い人が興味を持って受け継いでいくのが一番良いのではと思います。

御所野縄文公園で漆掻きの仕事を紹介する様子 ※画像提供:二戸市

ーこれからチャレンジすることを教えてください。

漆掻きに使う道具作りに挑戦したいと考えています。周りの方には色々と相談しています。それを本職にするかはまだ決めていませんが、一度は経験をしてみたいです。幸いにも年々漆掻き職人は増えており、現在浄法寺漆の組合には40名ほどいます。私が新たなことにチャレンジしてもよいタイミングではないかと思っています。私は金属工芸の経験はありますが、刃物作りの経験はないので未知数ですが、漆掻き職人の仕事と道具作りの仕事を理解して、もう少し職人同士のすり合わせがしやすい環境になればと思います。理想は、漆掻きを続けながら漆掻き道具を作ることです。

ー最後に、何か新しいことへ挑戦しようとしている岩手の若者へメッセージをお願いします。

私自身新しい事にチャレンジすることは得意ではないですが、何事もとりあえず始めてみることが重要だと思います。私は昨年の冬に初めてプラモデルを作りました。学生の頃からずっとやってみたいなと思いつつもなかなかその一歩目を踏み出せずにいました。なので、とりあえず組みたいプラモデルと工具を買って、始めないと勿体ないという状況にしました。仕事と趣味では全く同じとは言えませんが、やってみて向いてないと思ったら、別の事に挑戦してみるのも良いのではないでしょうか。私は、大学を卒業してすぐに浄法寺に来たので、社会人経験がなく困ることがありました。これがやりたいと思ったらチャレンジすればよいですし、やりたくても向いていないこともあるので、その場合やりたかったことに近いことを仕事を探せばよいと思います。私も漆芸を仕事にしたいと思っていたのですが、学校でものづくりを学んでみて自分にはものづくりは向いていないと思い、それを支える仕事を選びました。自分の可能性を信じて、漆掻きに挑戦して良かったと思っています。

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