何か新しいことをはじめている人、何かを発信している人。そういった人の多くは、何かしら自分なりの「哲学」を持っているように思えます。「自分が大切にしたい哲学」を考え、見つけることは新しいことを始めるときの手がかりになるのではないでしょうか。「いわてつがく」は、そんな思いのもと、さまざまなフィールドで活躍する人たちの「哲学」を紐解いていく連載です。
村井 旬(Jun Murai)
株式会社日々旅、ゲストハウス3710(ミナト)
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プロフィール:岩手県宮古市出身。地元のNPO法人「みやっこベース」で、高校在学時に復興支援活動に従事。山形の東北芸術工科大学でコミュニティデザイン(まちづくり)を専攻。大学中退後、全国各地のゲストハウスを転々としていたが、宮古市にゲストハウス3710のオープン準備を契機にUターン。
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ー学生時代の村井さんは?
東日本大震災が発生した時、私は中学生でした。中学校では生徒会長を務めていたので、入学式や卒業式などの式典で生徒代表として式辞を読み上げると周りの人たちから「田老の将来を担うのは君だ」などと褒められました。しかし、高校に進学すると勉強やスポーツに打ち込むことができなくなりました。 何か自分にできることはないかと考えていた時に思い浮かんだのが、NPO法人「みやっこベース」という復興支援団体での活動でした。様々な人に背中を押されながら宮古の復興支援に携わっていく中で、自分の活動が褒められることが嬉しかったです。そして、高校卒業後は山形の大学に進学し、コミュニティデザイン(まちづくり)を専攻しました。
ーゲストハウスとの出会いについて教えてください。
私が初めてゲストハウスに出会ったのは、大学の集中講義で島根県の海士町に行ったときでした。現地集合・現地解散だったのですが、私は学生でお金がなかったので、安価な青春18きっぷで移動し、手ごろな宿を探していたところ、山口県萩市のゲストハウスを見つけました。そのゲストハウスの受付のところに、さいとう製菓の「かもめの玉子」が置いてあったり、ちょうど私が訪れた日からお手伝いとして働く人が、2つ年上の自分と同じ高校の方で岩手との縁を感じました。宿泊客の中には、侍の格好をした旅行者がいたり、夜に弾き語りのライブが始まったり、これまで体験したことがないようなワクワク感がありました。この体験がきっかけで、ゲストハウスに興味を持ちました。
ゲストハウス3710(ミナト)の外観の様子
ー地元宮古で仕事することになったきっかけは?
在学中は様々な地域に行ったのですが、大学で学んでいることと、そこで体験したこととを比較した時に、大学で学んでいることは自分が求めているものとは違うと感じたことから、中退を決意しました。大学中退後は、様々な地域のゲストハウスを転々としながら、季節労働者として働いていました。そのような中で、宮古でゲストハウスを作るプロジェクトが始動し、高校生のころお世話になっていた「みやっこベース」の方が声をかけてくださいました。2018年8月のオープンに向け、同年5月に地元である宮古に戻り、オープニングに向けて慌ただしく準備を行いました。
愛媛で季節バイトを行っている様子
ー他地域と岩手・宮古を比較して感じたことは?
様々な地域を旅行して感じたのですが、地域にはそれぞれの魅力がたくさんあります。例えば、宮古のように海と山の幸が味わえたり、逆に宮古とは比較にならないほど深い歴史を持つ地域もあります。その中で、なぜ自分が宮古にいるのかと思うことはありますし、他地域の方に宮古を勧めても、逆に宮古には何があるのと聞かれることが多いです。宮古よりも海が綺麗な場所や美味しいものがある地域もたくさんあります。しかし、私にとっては、宮古は生まれた場所であり、他と単純に比較することができない特別な場所です。そして、何もないが故に落ち着くことが岩手の良さだと思います。
旅先のゲストハウスで手巻き寿司をしている様子
ー村井さんがゲストハウス3710で取り組んでいることは?
私は、ゲストハウス3710と1階のバーを運営しています。その他には、外国人向けに「魚市場見学ツアー」「星空観賞ツアー」「刀鍛冶の工房見学ツアー」の体験を企画しています。訪れた旅行者同士を交流させたり、旅行者と地域住民を繋げる役割を担っています。ゲストハウスは、他の宿とは異なり、共用部分があったり、部屋が相部屋であるなど、宿泊する人々の距離が近いことが売りの一つで、訪れた人同士が自然と交流できる宿泊施設と考えています。ゲストハウスの開業時は旅行者と一緒になって楽しむこともありましたが、新規のお客さんにとってはそれが入りにくい雰囲気だったりするので、運営する立場の人間として俯瞰して行動するようにしています。また、宮古のゲストハウス3710では、スタッフ企画でボードゲームや将棋などを行い、日常生活では出会うことがない人達と交流できる場所を目指しています。新しく来てくれた方にとっても打ち解けやすい場だと思っていますので、ぜひ気軽に立ち寄ってほしいです。
オープニングイベントで盛り上がる参加者
ーこれからチャレンジすることを教えてください。
宮古のために働いている自覚はありませんが、自分が働いて何かの形で宮古のためになっているのであれば嬉しいです。今後のことはわかりませんが、将来は自分のお店を持ちたいです。もし、宮古でお店を構えるのであれば、宮古にはこの店があるから帰ってきたいと思うような場所を作りたいです。自分の強みは広く浅くだと思っているので、表面の美味しいところを詰め合わせたお店になれば、面白いと思います。
ー最後に、何か新しいことへ挑戦しようとしている岩手の若者へメッセージをお願いします。
これまでに自分自身が経験したことしか話せませんが、色々な世界を見て、多くの選択肢を持つことで、人生が豊かになると思います。勉強もスポーツも上手くいかなかった高校生の時は、選択肢があまりなく、視野が狭かったのかなと思います。しかし、広く浅くではありますが、諦めずに可能性の芽を見つけてチャレンジして来ました。きっと自分にしかない経験が活かせる場があるはずです。