2021.10.26(火)

岩手から世界最高峰のステージへ    現代アーティスト  松嶺貴幸さん

    

何か新しいことをはじめている人、何かを発信している人。そういった人の多くは、何かしら自分なりの「哲学」を持っているように思えます。「自分が大切にしたい哲学」を考え、見つけることは新しいことを始めるときの手がかりになるのではないでしょうか。「いわてつがく」は、そんな思いのもと、さまざまなフィールドで活躍する人たちの「哲学」を紐解いていく連載です。

松嶺 貴幸(まつみね たかゆき)

現代アート作家

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プロフィール:岩手県雫石町出身。学生時代にフリースタイルスキーの事故により生死をさまよう。その後、新たな活路を見い出すため単身で渡米。日本では味わえないアメリカならではの、本場のエンターテイメント文化に出会う。現在は、現代アーティストとして自身の内側のエネルギーをアートに注ぎ込んでいる。

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ー学生時代はどんなことをしていましたか?

当時は、フリースタイルスキーで一旗挙げたくてカナダのウィスラーに行くことを目標にしていました。指導者がおらず、どのように練習すればよいか悩んでいた時には、自分が憧れの選手が毎日10キロ走っていたので、同じトレーニングを自主的に朝練として取り入れました。他にもテレビのCM中に筋トレしたり、炭酸とジュースは飲まないなど兎に角ストイックな学生生活を過ごしていました。しかし、突然のスキー事故によりスキー生活ができなくなりました。また一から新しい自分を作り上げることに非常に悩みました。

ー単身LAへ行くことにしたきっかけとは?

スキーの夢を諦めてから、次の目標として就職したいと思い、ハローワークに行きました。担当者から体の状態を見られ「障がい者の職業訓練所に行って何ができるのか訓練して確かめてください」と言われました。そこで、私は過大解釈をしてしまい世の中から必要とされていないと勝手に疎外感を感じました。確かに日常生活で電車やバスに乗ることが出来ないなど、公共サービスを自分の力で利用することができません。アメリカであれば自分を受け入れ、力を発揮できると考え渡米を決意しました。アメリカは障がい者に優しい国として有名でバリアフリーが進んでいたからです。その背景にはADA法(障害を持つアメリカ人法)があり、健常者と障がい者の間に公共サービスの差があると罰せられる法が整備されているからだと知りました。当時は、職種を狙って渡米したのではなく漠然と国際ビジネスを学べば、社会参加できるチャンスがあると思いサンタモニカカレッジへ1年留学することに決めました。

ニューヨークで披露した奇抜な作品①

ー帰国後どのような活動をされたのでしょうか?

アメリカから帰国後、東京の会社に就職したくてIT業界を中心に就活を始めました。就活していく中で本当に自分がやりたいことは何なのか、皆と同じ就活スーツに身を包んで、髪を切って本来の自分らしくない姿で面接を受けることに疑問を抱きました。そこからは、自分で技術を身に付けて自分の力を発揮しようと思いました。19歳から独学でフォトショップやイラストレーターを勉強していたので、自分の努力次第で高度なデザイン技術を習得することができると知ってからは必死に勉強しました。

桜からインスピレーションを受けた作品

ー現代アーティストの仕事について教えてください。

スイスのアートバーゼルに自分の作品を出展することが目標です。現代アートの最高峰でここにノミネートされることが、国際アート市場での評価につながるので今はここを目指しています。2年前、ニューヨークでアートパフォーマンスしてきたのですが、2,3回捻ったものではなく、自分の内側からあふれ出るものをそのまま作品として表現することができました。奇抜なパフォーマンスでも受け入れてくれる面白い場所がニューヨークです。来年2022年はドバイに出展します。国際的に自分のアートを披露していくことを続けていきたいです。

ニューヨークで披露した奇抜な作品②

ーアートの可能性とは、何だと思いますか?

自己表現とは恐怖心と表裏一体ですが、夢と可能性が詰まっている職業だと思います。怪我に限らず自分はとても無茶をしていて、自ら太く短くという生き方を選んでいます。岩手にいながら大きな夢を叶えたと立証したいです。岩手出身のメジャーリーガーの大谷翔平選手や菊池雄星選手は、岩手のスポーツ選手が世界で活躍できるとは誰も思っていない中、MLBというステージで活躍しています。私もアート分野で彼らと同じようなステージに行くことができれば、岩手にいてもメジャーにいけるということを立証できるので、その道を自分が作りたいと思います。

作品制作中の松嶺さんの姿

ー松嶺さんにとって岩手・雫石とはどういった場所ですか?

最高の自然資源を持っている場所だと思います。皆は何もないと言いますが、これだけ自然資源を持っている場所はあまりありません。幼少期に近くの川で水中眼鏡をつけて潜ってみると天然の水族館だったのを今でも覚えています。東京に出張に行った際、六本木ヒルズ付近をランドセルを背負っている小学生を見ると何を考えて生きているのかと思うことがあります。地方には木登りしたら枝が折れたり、枝がしなって顔に跳ね返ってきたりなど自然のレスポンスがあります。今、みんなにアートを通じて感じて欲しいのは、自分の思い通りにならないという自然の摂理です。物事を利己的、論理的に考える人が多いのですが、自然が自分たちの思い通りにリアクションしてくれることはないです。共生共存する感覚が必要で自然の美しさや楽しさの魅力を吸い取りながら、インスピレーションを与えてくれる場所です。

ー作品制作する際、どのような心意気で取り組んでいますか?

アーティストという職業は、何が正しいのわからない自分自身の可能性を信じて前に進むしかない職種です。プロフェッショナリティとは何か、という問いと自分ができる最大の表現を届けることを大切にしています。制作に妥協を許してしまうと、その妥協が作品を通じて伝わるので、自分の限界値で作品を生み出すことを意識しています。いつも次の仕事では必ずアップデートする努力をしています。そして、結果として作品がアップデートできていない場合でも、作品に対して真正面から挑んだ姿勢は見ている方に伝わると思います。また、アーティストの制作環境は資金的に厳しいです。MAXのパフォーマンスをしないと自己満足のアート世界で遊んでいると思われます。この5年間は意地でも最高なものを創出することを続けてきました。朝4時まで制作して化学薬品のにおいがする部屋で雑魚寝したこともあります。そういう劣悪な環境の中でも何かを生み出すという強い意志がハングリー精神を搔き立てます。爆竹アートでは、1枚のキャンバスに数千発の爆竹を打ち込みます。この業界では作家の圧力というのですが、いかにキャンバスに熱が込められているのか、そこに感情を注ぎ込むのかが大切です。

松嶺さんが制作した「HAM=ハム」というキャラクター

ーこれからチャレンジすることを教えてください。

ブロックチェーン技術を使ったNFT(Non-Fungible Token)というオンリーワンのデジタルアートです。現在は爆竹アートの傍ら、4つのCGソフトを使いデジタルデザインを制作しています。NFTでは、ラリブルというデジタルアートのマーケットに東北エリアでおそらく最初に出品しました。コロナ禍でイベントが縮小され活動の幅が狭まる中、現代アーティストとして何かできないかと考えてNFTに辿り着きました。今は自分の作品を世界へ発信していきたいです。

※NFT(Non-Fungible Token)=非代替性トークン、デジタルデータを「本物」と「偽物」を見分けらえる技術

ー最後に何か新しいことへ挑戦しようとしている岩手の若者へメッセージをお願いします。

現在コロナ禍のため何かのせいにするのは簡単な時代です。いつも必ず希望の光があるので、絶対諦めずに可能性を探してください。私は周りからスパルタと言われるのですが、自分を鼓舞してきたことで将来がひらけた一人なので、今悩んでいる方は自分が置かれている環境と機会を脱してほしいです。最近は、学生が作品制作のアルバイトに来てアート思考を探求したり、学生の創作活動を応援しています。学生たちが目標を持って羽ばたけないのは可哀相です。アートに興味がある方や私に会いたい方は来てください。

岩手の伝統工芸である漆を使用した作品

HP:https://takayuki-m.com/

 

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